小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

INDEX|40ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

 自分達も、奏自身も、その事はイヤと言うほど分かっている。だからこそ、その時になって悔いの無いように“今”出来る事を……三人で出来る事を……精一杯やっているのだ。
「とりあえず、来週からは……」
 朝、二人でライブをやって、早めの昼食をサッサと済ませて、藤森宅へ直行! 奏の体調を見て、午後のライブを行なう。
「……いつまで出来るんやろ……」
 今にも泣き出しそうな声で航が呟く。
「奏が、“いい”って言うまでだよ」
 慎太郎の返事に、
「……うん」
 半ベソの航が笑った。
  

“コトン……”
 二階へ続く入口側からの物音に振向いた両親が驚いた。寝ている筈の息子がそこに立っていたからだ。
「奏、どうした?」
 腹でも減ったか? と笑う父。
「何か軽い物、出すわね」
 キッチンへと急ぐ母。
「大丈夫。お昼にいっぱい食べたから」
 そう微笑んで席に付く奏。
「……話が……あるんだ……」
「話?」
「じゃ、お茶淹れるわね」
「ママ、お茶はいいから、座って」
 奏の真剣な表情に驚きつつ、母が座り直す。
「……ここ何日かずっと考えてたんだけど……」
 奏の静かな声がリビングに響いた。
  

 月曜日。
 一週間振りに登校した奏を石田と航のおバカ話しが出迎える。
「有り得へん!!」
「マジ、マジ! 嘘じゃねーよ!」
 話はこうだ。
 週末に行なわれたバスケの試合中、一人がずっこけて、たまたまその前にいた選手のユニフォームに手が掛かってしまった。掛かったまま、ずり落ちるハーフパンツ。当然のように見えてしまった下着。
「それがさ、ドナルドなのよ!」
 笑いながら話す石田に三人が首を傾げる。
「ドナルド?」
「マックの?」
「ディズニーの?」
「ドナルド・ダック! ……こう、さ……」
 手振り身振りでハーパンをずり落とす動作から、見えるところまでを説明する。
「で、前にいた奴、パンツ見せたまま、ビターン! ってうつ伏せに転んだわけ! したらさ!」
 鮮やかな水色のトランクス……後部が目に飛び込む。その丁度真ん中あたりに白い……雲……?
「“雲?”とか思って見たら、尻尾なのよっ!!」
 つまり、トランクス自体がドナルド・ダックの腰部分のデザインになっていたらしい。
「こー転んで、ここに、尻尾!?」
 航が乗っかって笑い出す。
「おうょ! 一瞬シーンってなって、その後、スタンド、爆笑!」
「……それって……」
 弁当を食べ終えた奏が、クスッと笑いながら呟く。
「……それって、ほんとに試合相手の話?」
「何よ、藤森」
「自分の事じゃなくて?」
 ペットボトルのお茶を飲んで、奏がフッと笑った。
「確かに……」
 奏の隣で慎太郎が笑いながら頷く。
「なんや、石田。武勇伝!?」
「違ぇよっ!!」
「見してみーや!」
 航が石田の腰に手を掛けた。
「あにすんだよっ!」
 石田がそれを払う。
「怪しい……」
「怪しかねーよ!」
「見してみって!」
「バッカ! みんな見てんじゃねーかよっ!!」
「見てなかったら、見せんのか?」
「見せねーよっ!!」
 手を掛けたり振り払ったりを繰り返しながらのやりとりに、奏がクスクスと笑っている。そんな奏の邪魔をしたくなくて、ライブの件の話は放課後にしようと、慎太郎も笑いの輪に加わるのだった。

  
「な。飯島」
 放課後、一足先にHRの終わったB組で通学カバンと部活バッグを肩に背負って石田が振り返った。
「ライブ……まだ三人でやってるのか?」
 突然の問い掛けに驚きつつ、慎太郎が頷く。
「まぁな。……なんで?」
「藤森さ、休みがちじゃん?」
 桜林祭でのライブの後に、保健室へ直行した事も石田はミカから聞いて知っている。
「どっか悪いんじゃねーかな……って。堀越ほど深刻じゃないにしろ……」
「え?」
 石田の言葉に更に驚く慎太郎。緊張やストレスで倒れてしまうのは以前説明したけれど、航のそれが“深刻”だとは一度も口にはしていない。
 驚いたままの慎太郎に、石田がフッと笑った。
「去年、堀越が倒れて入院してたじゃん。退院と同時に松葉杖でさ。その間のお前見てて、なんとなく……」
 それ以前は声を出す事すら出来なかったのだ。それを考えれば自ずと答えは出る。
「藤森の奴、学校に来る度に顔色が白くなってる気がしてさ。なんかヤバイ病気……とか?」
 いつも一緒にいるのだ。隠しても隠し通せる筈も無い。
「……ま。ちょっとな」
「堀越とどっちがヤバイ感じ?」
「今は、奏の方……かな」
「そっか……」
 向かい側のA組がざわつき始めた。HRが終わったようだ。
「俺に出来る事、あるか?」
 そう。いつも一緒にいるのだ。放課後も週末も部活で忙しいけれど、せめて学校にいる間は何か力になりたい。
 そんな石田の気持ちを察して、慎太郎が“ありがとう”と頷いた。
「この前、病院行って話して来た。“今のまま、変わらずに接して下さい”って言われたよ」
「“変わらず”……か……」
 何も気付いていないかのように、これまでと同じ態度で……。
 石田が理解して慎太郎に笑みを返し、部活へと向かうべく一歩踏み出す。その背中に慎太郎の声がぶつかった。
「でさ、石田」
 何事かと振り返る。
「何?」
「パンツ事件。お前?」
「違ぇよっ!!」
 “なんで蒸し返すかな!?”と半分怒りながらドスドスと教室を出る石田とすれ違いに、
「B組、早かったなぁ」
 長引いたHRにうんざり……といった顔の航と奏がB組教室へと転がり込んで来た。
「石田くん、何かあったの?」
 すれ違い様“行って来るわ!”と手を振っていたが、なんだか機嫌が悪かった。
「例の“パンツ”、お前? って訊いてみた」
 込み上げてくる笑いを噛み殺して、慎太郎が答える。
「わざわざ?」
 眉をしかめながら奏が笑い出す。
「で、どうやった?」
 航は武勇伝であって欲しそうだ。
「“違ぇよ!”って……」
 親指で石田が出て行ったドアを指し示し、帰るべくカバンを手にする。帰りは公園を抜けたバス停までは一緒だ。ライブの事は道々話せばいい。
「慎太郎、航くん。ちょっと、いいかな?」
 一歩踏み出した所で、奏の声が二人を引き止めた。
「どうした?」
 具合でも悪いのかと、航が心配そうに奏の顔を覗き込む。
「話があるんだ。……大事な話」
 奏の真剣な表情に二人が近くの椅子を持ってきて奏の前に座った。
「ライブの事? ……だったら、ムリしなくてもいいぞ」
 慎太郎が自分達の考えていた事を告げようと口を開く。
「……もっと、大事な事」
 奏が大きく深呼吸して、二人に向き直った。二人も思わず姿勢を正す。
「……僕、アメリカに戻ります」
「えっ!?」
 二人揃って声を上げた直後、
「いつ!?」
「なんで!?」
 納得がいかず……というより、訳が分からず二人が詰め寄る。
「戻るのは二学期が終わってすぐ。クリスマスの頃」
 その言葉に航が指折り数える。
「後……二週間!?」
「うん」
「なんで戻るん?」
 自分の力が足りないのか、それとも……。不安いっぱいの顔で問い掛ける航に奏が微笑む。
「君達ともっと一緒にいたいから」
  ――――――――――――
 話は二日前に戻る。