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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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 克哉はそっと穴を覗いた。
 食卓を囲っていたのは静枝、美花か美咲のどちらか一方、前に聞いた話から察するに美咲のほうかもしれない。それに慶子を加え、侍女の菊乃と瑶子は傍でじっと立っている。新たな顔ぶれはない。
 当主の静枝、それを母とする美咲と美花の双子、侍女の二人。すると慶子とはいったい何者なのだろうか?
 それにるりあという角の生えた少女の姿もない。
 赤い札の部屋の住人。
 まだ姿を見ない少年たちの行方。
 そして、友人のルポライターはどこに?
 しばらく見ていると瑶子はいったん奥へと消え、再び戻ってくるとお盆に食事を乗せて戻ってきた。そのままほかの部屋へと移動する。
 克哉は先を見越して美花がいると思われる部屋の天井裏に向かった。
 そっと穴を覗く。
 美花は壁にもたれかかりうずくまっている。まだ泣いているのかもしれない。
 すぐに廊下から声がした。
「美花さま、失礼してよろしいでしょうか?」
「どうぞ瑶子さん」
「はい、失礼します」
 やはり瑶子の行き先はここだった。
「お食事をお持ちしました」
 白米と山菜、果物などで肉はない。
「ありがとう瑶子さん。あなただけ、あなただけ……本当にわたしのことを心配してくれるのはあなただけです」
「そんなことはありません。静枝さまだって美咲さまだって、慶子先生も、るりあちゃんも菊乃さんもきっと心配してますよ」
「……そうね」
「大丈夫ですか美花さま?」
「大丈夫、なにも心配いらないから、あなたも自分の仕事に戻って」
「……はい」
 瑶子はちらりと盃と銚子を見て、なにも言わずそれらを盆に乗せて部屋をあとにした。
 独りになった美花は沈んでいるようだった。
 机に向かって本を読もうとしているが、頁がいっこうに捲られない。
 すぐに美花は本を閉じて机に顔を伏せた。
「……外の世界にことなんて知らなければよかった」
 美花はそっと本を自分から遠ざけた。
 噂を克哉は思い出した。
 この屋敷の住人は外に出ない。唯一出入りをしているのはひとりの侍女だけ。
 出ない、それとも出られないのか?
 この屋敷が世界のすべてだったらと思うと克哉はぞっとした。
 突然、戸が開き美咲が入ってきた。
「瑶子に聞いたわ、どういうことか説明して」
「お姉様!」
「ねえ死にたいの?」
「そんな……死にたいだなんて」
「だってそういうことでしょう。死にたいのなら今ここで殺してあげましょうか?」
 克哉は戦慄した。美咲のその言葉が本気だと感じたからだ。
 狂ってる。
 胸を締め付けられるような狂気を美咲は放っている。
 美花は美咲を見つめたまま黙っていた。
 美咲もなにも言わず睨んでいる。
 しばらくして美咲が美花に向かって歩き出した。
 そして、細い手が美花の首へと伸ばされる。
「お姉様!?」
 眼を丸くして息を詰まらせる美花。
 美咲は嗤いながら美花の首を絞めていた。
「苦しいでしょう、死ぬのは苦しいのよ、死に近付くにつれてもっと苦しくなる」
「ううっ……やめ……お……」
「綺麗な顔……世界で一番綺麗なあなたの顔……大好きよ美花」
「く……うっ……くはっ!」
 首を解放され、一気に呼吸を取り戻した。
 美咲は背を向けた。
「死にたいのなら勝手になさい」
 そう言って美咲は咳き込んでいる美花を尻目に部屋を出て行ってしまった。
 美花の首にはくっきりと指の痕が残っていた。
 殺す気はなかったというのか?
 だとしても尋常な行為ではなかった。
 美花はじっと動かない。克哉は別の穴を探ることにした。
 廊下の穴を覗くと美咲と静枝がなにやら話しているようだった。小さな声でまったく聞き取れない。険しい顔をする美咲と涼しげな顔をする静枝。
「わたくしの部屋においでなさい」
 と、いう静枝の声だけは聞き取れた。
 廊下を歩き出す二人。
 見失わないように克哉は次々と穴を辿った。ほかの穴を覗かぬように、慎重に二人のあとを追わなくてはならない。
 そして、ついに静枝の部屋を突き止めた。
 部屋の中に消えた二人。克哉も部屋の天井の穴を覗いた。
 正座をして向かい合う二人。先に話を切り出したのは美咲だった。
「放っておけばそのうち死ぬわ。どうする気?」
「どうもしないわ。そうなればそれが定めなのよ」
「定めなんてくだらない」
「くだらなくても従わなければ生きていけないのよ、我が一族は」
「本当に嫌気が差す。わたしの代で全部終わらせてやる」
「それならなおのこと、あの子が死んで貴女が次の当主になればいいわ」
「……当主なんて興味ない」
 美咲の眼は相手を殺さんばかりの眼だった。
 艶やかに微笑みながら静枝は受け流している。
「貴女の意志なんて関係ないのよ。必ずどちらかが当主になる。そして、この屋敷と共に生き続ける」
「今だってこの屋敷に縛られてるじゃない!」
「そう、それが続くだけ。貴女も、貴女の子も、貴女の孫も、永遠に……」
「子供なんて生まないわ!」
「……わたしもそう思っていたわ」
 静枝は哀しそうな表情をした。
「もういい!」
 美咲は立ち上がり部屋を飛び出した。
 残された静枝はひとりつぶやく。
「困った子だこと。でもああいう子が次の当主になるのよ、お前のようにな……」
 お前とは誰だ?
 克哉は静かに穴から目を離した。