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りんみや 陸風6

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水野と佐伯の両親に集まってもらって、真理子は先程の用件を切り出した。佐伯夫婦はうんうんと快く了承したが、水野夫婦が躊躇した。
「真理子、それは・・・あなた、そんなこと我慢できるの? 子供の犠牲になることはないと思うんだけど?」
「何を血迷った? 城戸くんを篭の鳥にするつもりか・・・それこそ迷惑だろうが。」
 ふたりして反対した。理由が別物だ。瑠璃は真理子が子供のために我慢することを心配し、りんは城戸を閉じこめることを心配する。
「でも、パパ、ママ・・・これが美愛には一番だし、リッキーにも一番じゃないかしら?・・ママ、私はあんまり犠牲になるつもりはないの。リッキーにも、はっきりとみやくんが一番でリッキーのことは愛したりできないって言ったから。リッキーは、それでいいと了承してくれてる。それとね、パパ、リッキーが自分で、美愛と離れると生きてる気がしないって言ったのよ。だから、美愛の傍からは離れられない。篭の鳥は覚悟してるみたいだから・・・なんなら、リッキーを呼ぶけど?」
「ああ、呼んでもらおう。あのバカ・・・どんどん深みに嵌まって・・・」
「林太郎さん、城戸さんが納得してくれるなら、これほどいい縁組はないよ。年令的にもちょうどいいし、何よりみあちゃんが懐いてる。」
「だが、佐伯さん・・・将来、美愛が伴侶を得たら? 城戸くんには何も残らない。愛してくれるやさしい妻が残るのとは訳が違う。寂しい晩年を迎えさせるなんてのは反対です。・・・以前のように、ここと別に拠点を持って適度に逢うほうがいい。」
 今は無理でも精神的に落ち着いたら、城戸だって最低限の距離は設けるべきだ。りんはそのつもりをしていた。
「りんさん、惟柾様から電話だ。」
 居間のほうに浦上がコールを寄越した。またか、と渋い顔で受話器を取る。また御託宣ですか、と嫌味たっぷりに口を開いた。
「・・・そう突放すな・・・リィーン、リッキーは水野の籍に収めろ。心配しなくても五年しないうちに、マリーはリッキーを夫として接するようになる。マリーが受け入れれば、リッキーもその場に定着する。何も、おまえが案じる事態は起こらない。」
「じいさま、それは本当だな? 口から出任せだったら墓を暴いて蹴りを見舞うぞ。」
 背後では、りんの言葉に佐伯夫婦が狼狽する。高圧的な先代に悪口など吐こうものなら仕返しは恐ろしい。
「・・・信用しない? それも一興だが・・・まあ、出任せではないね。うちの婿殿は用心深くて結構だ。」
「当たり前だ。人の一生なんて取り返しがつかないんだぞ。」
「・・・おまえ・・・瑠璃と結婚して後悔しているか? 離婚しようなんて考える?」
「バカなこと、ほざいてるよ、このじいさまは。今更、何を・・・うちは銀婚式も終わろうかっていう老夫婦だぞ。瑠璃さんなんて空気と同じで離婚なんてあるかっっ。」
 その言葉に瑠璃が立ち上がった。どんな話し合いだと近寄った。
「・・・夫婦なんてそういうものさ。年月が経てば当たり前の存在になる。それが壊れるほうが難しい。・・・最初の経緯がどうであれ、別れるのが面倒になる。」
「昭和初期の夫婦像というやつだろ、それは。まあ、いいだろう。・・・真理子は受け入れるんだな?」
「ああ、受け入れる。リッキーが居ることに安堵するようになる。リィーン、瑠璃に代わってくれ。」
 となりで心配そうに顔を覗かせている瑠璃に受話器を渡す。こちらは穏やかに雑談しているようなトーンである。それでも、どうやら反対したことに対する説得ではあるらしく、何やら渋りながらも瑠璃も肯定の返事をしている。そうこうしているうちに、城戸が姿を現した。孫娘も一緒だ。その姿に気付いて、瑠璃が城戸に受話器を渡した。
「あなたに話があるそうよ。」
 はあ、と城戸が受け取った。
「リッキー、今度の贈り物はふたつだ。謹んで贈呈しよう。」
 以前と同じように惟柾はそう告げた。ゆきを与えてくれた時と同じだ。オーナーは常に正しく、自分を導いてくれる。だからこそ、確認した。
「オーナー、私は・・・それを受け取ってもよろしいんですね?」
「・・・受け取っておくれ・・・今度は最後まで別れはないよ。おまえのほうが先に眠るからね。」
 ほっと安堵した。マリーに添うことに問題はないのだ。そして、今度は別れもないと言われて嬉しかった。
「・・・そうですか・・・わかりました、謹んでお受けいたします。・・・事業のほうから外されてしまいました。申し訳ありません。」
「・・そちらはクッキーの領分だ。あれが外すというなら従えばいい。・・・リッキー、美愛を任せる。ミーヤのように大切に育ててほしい。私のオーダーはこれで最後だ。」
「はい、承知いたしました。」
 それから惟柾はとても悪戯なことを囁いた。
「今度から、おまえは孫娘の婿殿だ。リィーン同様に婿いびりなどするつもりだから、楽しみにしていなさい。私も標的がふたりになって充実した老後が送れるよ。」
「・・・婿いびり? 私が? オーナー、それはご勘弁ください。」
「そうそう、リッキー、これからは『お祖父さま』と呼び習わしてほしいものだ。」
 城戸が慌てているので、リィーンが城戸から受話器を奪った。
「おいおい、じいさま・・・城戸くんに婿いびりなんかするなよ。俺は図太いからいいが、こいつは繊細なんだ。もう、いいだろう、切るぞ。」
「ふん、犠牲者は多いほうが楽しいに決まっている。」
 双方共に意地悪く笑って、同時に連絡を切る。困った顔の城戸に、りんは慰めの言葉などかけて座らせた。
「気にするな、あのじいさまは本気で、おまえさんをいびったりしないよ。・・・城戸くん、本当にいいのか? 時間が必要なら・・・」
「いえ、さっきまでは時間を頂こうかと思っていましたが・・・結構です。オーナーが認めてくださるなら、それに従うことにします。・・・リィーン、美愛を育てるのがオーナーからのラストオーダーだそうです。今までで一番やりがいがありそうで嬉しいです。佐伯さん、瑠璃さん、マリーと結婚させて頂いてよろしいでしょうか?」
 憑物が落ちたように城戸は晴れ晴れとした顔でそう言った。何よりも一番、気に掛かっていた。オーナーが反対するだろうと思っていたからだ。マリーの言い分もわかるが、水野の籍に入る必要はないと拒絶されるだろうと覚悟していた。それが贈り物だと言われ、ラストオーダーになるとは夢にも思わなかった。
「リッキー、私は真理子さえよければ反対なんてしないわ。」
「俺達は元から奨めていたほうだ。こちらから頭を下げて貰っていただかなきゃならないよ。ふつつかな娘だけど・・・」
 誰も反対などしない。城戸が受けてくれさえすれば、それでよかった。やれやれ、とりんは頭を掻いた。この男は最後まで水野に付き合うことになった。アフターケアは万全だったようで、城戸の沈みも少ない。惟柾のカリスマ性には今更ながらに驚かされる。
「・・・真理子・・・最後に駄目押しだ。本当にいいんだな?」
「ええ、いいんです。お祖父さまも了承してくれるなら、それでいいの。よかったわ、これで美愛に父親ができる。」
作品名:りんみや 陸風6 作家名:篠義