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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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Link6 ナギサ


《1》

 あたしはいったい……。
 そうか……ザキマの攻撃を受けて……ただの女の子に戻っちゃった……。
 白い仮面が……あたしを……見ている……。
 床に優しく寝かされ、あたしは……意識が朦朧として……。
 そこにいるのは……誰?
 いつもあたしが抱きついていた……あの背中。
 あたしはその背中に手を伸ばした。
「……リョウ……リョウ、リョウなんでしょう!」
 彼は振り向こうともしなかった。
 ダメだ、身体が重い。
 力尽きたあたしは床に顔を埋めた。
 音だけが聴こえる。
 鳴り響く銃声、巨大な何かが動く音、何かが爆発したみたい。
 声が聴こえる。雰囲気は違うけど、これは彼の声。
 立ち上がらなきゃ。
 あたしは力を振り絞って床に両手を付いた。そのまま膝を付き、上半身を上げてやっとの思いで立ち上がった。
 二人の姿が目に入った。ナイと仮面の人……。
「ファントム……メア!」
 ナイはそう彼のことを呼んだ。
 でも違うの、彼は……彼は……。
 あたしは一生懸命、ふらつく足で彼に駆け寄った。
「目を覚ましてリョウ!」
 心の底から声を出した。届いてあたしの声。彼の心に届いてお願い。
 あたしの行く手を阻む影――メア。
「ファントム・メア様が復活した今、もう貴女はもう用済みよ」
 メアの手から放たれた見えない風にあたしは飛ばされ、何度も床に転がって全身を打った。
 あたしが再び立ち上がろうとしているとき、大狼君の声が耳に飛び込んできた。
「これはいったいどういうことだ!」
 それに対して彼は首を傾げた。
「さあ、ボクにもよくわからない。メア、説明してくれないかな、なぜボクが復活したのか?」
 あたしはメアに視線を向けた。
「全ては憎きファントム・ローズによって、ファントム・メア様が滅ぼされたことにはじまります」
 あの時、ファントム・ローズはあたしの前に現れて言ったの。
 ――ファントム・メアは滅びた。って。
 あたしは信じなかった。だって、そんな……ファントム・メアは……。
 そして、ファントム・ローズもあたしの前から姿を消した。
 でも、あたしは納得できなかった、何もかも。だから、この世界で情報を集めることにしたの。
「そうだ、ボクは確かに滅びた筈だ。では、今ここにいるボクは何者だ?」
 ファントム・メアの問いに、即座にメアが答える。
「我が君、ファントム・メア様でございます」
 どうして、またファントム・メアなの?
 悲しすぎる。悲しすぎるよ。
 ナイが壁際に逃げて叫ぶ。
「全てはメアが仕組んだことだったの! ウチとメアが〈ハザマ〉に駆けつけたときには、もうすでにアナタは断片化して消えかけていた。その断片をメアは掻き集めて、ブレスレッドに加工したの」
 ファントム・メアがブレスレッドをあたしたちに見せた。
「これだな?」
 そのままファントム・メアはメアに顔を向けた。
「それからどうした?」
「ホームネットワークからはすでに、ファントム・メア様の元なった者は完全に消滅しておりました。そこで私は新たな器をドリームワールドに見出したのです。ホームネットワークから発せられる想いが、ドリームワールドであの者を創り上げた」
「それがレイか……」
「その者は他人が創り上げた思念でしかありませんわ。ですので、本当に器になるか賭けでございました」
 あたしがレイに感じていた気持ち。
 レイからリョウを感じた。けど、何か違った。レイはレイであって、リョウではなかった。
 花の香がした。そう、薔薇の香。
 そして現れたのはあのピエロ。でも、わかっているの。この香はあの人の香。
 ファントム・メアもピエロの正体に気付いているみたい。
「鳴海マナ……いや、ファントム・ローズだな」
「そうだ。私の名はファントム・ローズ」
 ピエロは一瞬にして、ファントム・メアとそっくりな姿になった。
 でも、これも違うの。ファントム・ローズはきっとあの人。薔薇が好きだったあの人。
 無機質なハズのファントム・ローズの白い仮面が、なぜかあたしには哀しそうな表情に見えた。
「私は賭けに負けたのだ。私は君が春日リョウに戻ることを心から願っていた。しかし、君は再びファントム・メアとして目覚めてしまった」
 どうして……どうしてリョウは、またファントム・メアになってしまったの!
 あたしはリョウが好きだった。リョウはあたしより一個上の先輩。いつも一緒にいたのに、あんなにも楽しかったのに、突然リョウはあたしの前から消えた。
 そして、代わりにファントム・メアが現れた。
 ファントム・ローズとファントム・メアが向かい合った。
「ファントム・ローズ、ここでの勝負はお預けにしよう。ボクは覚醒めたばかりだ、少し休養を取りたい」
「そうはさせない。ここで決着をつける!」
「ならば相手をしよう」
 なんで二人が戦わなきゃいけないの!
「やめてリョウもマナお姉ちゃんも、なんで戦わなきゃいけないの!」
 あたしが割って入っても、ファントム・メアは銃を抜いた。
「それはきっと宿命だ」
「やめて!」
 あたしは心の底から叫んだ。
 銃弾があたしの真横を抜けた。
 あたしには二人の戦いを止められない。どうしていいかわからなくて、あたしは地面にしゃがみ込んで、目を瞑って視界を閉ざした。
 何も見たくない。
 何も聞きたくない。
 あたしは両耳を手で塞いだ。
 薔薇の香がする。
 近所に住んでいたあたしのお姉さんみたいな存在。庭で薔薇の花を育てていた。どうして薔薇が好きなのって聞いたこともあったっけ。でも、哀しい顔をして笑うだけで、何も答えてくれなかった。
 ……なにッ、この感じ!
 あたしは自分を閉ざすのを止めて立ち上がった。
 強い風にあたしの身体は吹き飛ばされ、床にお腹から落ちた。
 そのまま顔を上げると、喪服のような黒いドレスを着た妖艶な女性が立っていた。
 あいつは……ナイトメア!
 何度もあたしたちを苦しめたナイトメアが、どうしてここに?
 ファントム・メアがナイトメアに駆け寄る。それを止めようとするファントム・ローズの薔薇の鞭。
「行かせないぞファントム・メア!」
 ファントム・メアは足に鞭を巻かれた倒れたけど、それをすぐにナイトメアが助けに入った。
「ファントム・メア様!」
 鞭を切ってファントム・メアとナイトメアが逃げようとしてる。
 ダメ、行っちゃダメ!
「行かないで!」
 あたしの声にファントム・メアは顔を向けた。でも、彼は何も言わない。
 ファントム・メアの腕に鞭が巻き付いた。ファントム・ローズの鞭じゃない、大狼君の鞭だ。
「ファントムの存在はこの世界でも噂になっている。ファントムの真の意味とはなんなのだ?」
 ファントム・メアは逃げることを中断した。
「ワールドネットワークから?弾かれたモノ?の総称。キミはどうやらこの?世界?について興味があるようだね」
「私はサイバーワールドが電影であることを知っている。そして、私はどうやら本来ここの住人ではないらしい。では、私は何者なのか? 私の本来あるべき世界はどこか? そもそも世界の成り立ちとは? 現実と虚構の境は何なのか?」
「ならばボクと共に歩むかい?」
「どんな道を歩むと言うのだ?」