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秘密の花園で待つ少年 ~叔母さんとぼくの冒険旅行~

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 ぼく達は駅へ向かい、途中何度か乗り換えて最後に成田エクスプレスに乗った。
 ここまでくれば、もう、終点がどこなのか、ぼくにだって判ってしまう。そこへ行き着く前に、おばさんに最終地点を訪ねることにした。
 おばさんは窓側の席で「電車に乗ったら駅弁よね!」と嬉しそうにお弁当を食べている。
「おばさん、いい加減、どこに行くつもりか教えて欲しいんだけど…」
「ん?どこだと思う?」
「…って、空港へ行くって事は、飛行機に乗るんだよね。しかも、成田って国際線。国内線もあるけれど、それなら羽田空港へ行く方がずっと早い。……ぼくたち、海外旅行に行くの?」
「ピンポン!だいせーいかーい!」
 おばさんは箸をくわえて両手を上げて陽気に拍手した。
 薄々わかっていたことながら、愕然とし頭から血の気が引いた、馬鹿陽気に駅弁に向かい直るおばさんをまじまじと見つめてしまった。

 ぼくが?海外旅行?
自宅のある街から両親と離れて、しかも飛行機に乗って旅行なんて!
「北海道のお祖母ちゃんのウチにしか行ったことないのに…」
「ああ、あの時は、家族で行ったんだってね」
 おばさんはモグモグ頬張りながらぼくの頭の中の言葉が勝手に出た独り言に相槌を打つ。
…未知で言葉も通じない異国の地へ、このおばさんと二人だけで旅行!
不安、それ以外何を言い表したらいいのだろうか…
 あまりの驚きに言葉を失って意識消失しているぼくに、叔母さんはお弁当から目を離して面白いものでも見るようにしていたが、口の中のものを飲み込むと、ふと、まじめな顔をして言った。
「これはね、あんたのお母さんが私にあんたを預ける前から予定していたことなの。私のところへ来る。すなわち、私と一緒に行動を共にする。それしか、子供のあんたは選択できないの。いえ、選択なんてもとからなかったのよ。…でも良かったじゃなーい。タダで海外旅行を出来るのよ?しかも9歳の分際で。その歳で人生観変わったりしたらどーしよう!」
 ダハハハハー。と馬鹿笑いしているおばさんに、次第に意識を取り戻してなお、怒りが湧き上がってきた。子供だからしょうがないのよと言って理不尽に振り回している、としか言えない無神経なこの言動!
 ご飯粒のついたその頬に一発殴って(しかもグーで)も赦されるんじゃないだろうか。
 ぼくは振り上げそうになった拳を、それでも膝に下ろした。無力だ…ぼくって…

「やだよ!海外なんて…まず言葉がわからないよ。」
「だーいじょうぶ。大丈夫。なんとかなるって。私だって、英語を6年間学校で習っても全く実になってなかったけどさ、何度か旅行に行ってもなんとか日本に帰ってこられたんだから。旅は恥のかき捨て!努力と熱意と演技力よ!」
「え、何それ、演技力って…」
「困ったときは大げさに困り、怒っているときはめちゃめちゃ怒ってるふり。そうすると、相手は親身になってくれたり、焦ったり困ったりするわけよ。ニコニコしているだけが日本人じゃねーってこと、判らせてやろーぜ」
ウインクして親指をおったて格好付けて満足したのか、再びお弁当の残りを一掃するため、尚、熱心に箸を進めた。
 そうか…叔母さんはどこへ行っても、人に迷惑なことを平気でやっちゃっていたんだ…。
 今回の旅はぼくにとっても恥のかき捨てだらけになるんだろう。と、しんみりしていると、はたと、気が付いた。
「英語ってことはぼくたち英語圏の国に行くの?」
「そうよ。行き先はイギリス。正式名称『グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国、ザ・ユナイテッド・キングダム・オブ・グレート・ブリテン・アンド・ノースザン・アイルランド』。イギリスってのはね、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの四つからなる連合王国なのよ。首都はロンドン。面積は日本の約三分の二。今の元首は女王エリザベス2世。ちなみに国花はバラ。通貨はポンド…あちらの発音はパウンドね。それとペンス、一パウンドは百ペンス。日本円にしてそうね…今は百五十円くらい?日本との時差は9時間。今回、成田から途中乗り換えはするけれど直便で行けば十二時間ってところね」
 叔母さんは途中から旅行ガイド本を取り出して、スラスラと読み上げた。
 そして、本を閉じるとぼくに手渡して言った。
「基本的に取材旅行だから、私の行きたいところへと行くんだけど、希望があったら聞いてあげるから、一応、目を通しておいたら?」
「…叔母さんの行くところって何処?」
 旅行ガイドブックに目を通すより先に、これからどこへ連れ回されるのかを聞いてみることにする。
 どうせ僕には行きたいところなんて、考えも付かない。
 ところが、叔母さんはぼくを見てニヤリとほくそ笑むと、得意気に言った。
「イギリスってところはスキャンダルとロック、ファンタジーやホラーをこの上なく愛する国らしいわよ。例えば…「不思議の国のアリス」や「ハリーポッター」が生まれたのはこの国だし、クマのプーさんはモデル地が観光地にまでなっているのよ。ホラーはまさに宝庫。あちこちに点在する城は観光できて、夜な夜な幽霊が出る場所を教えてもらえるし、座ると必ず死ぬと言われる椅子があるバーがあって、誰も座ることの無いように天井から吊り下げているそうよ。有名な世界遺産のストーンヘンジ。ただの岩が並んでいると思われがちだけど、その石を分析してみると遠い北の地からわざわざ運ばれてきたことが分かったの。作られたと思われる時代からして、その巨大な岩をどうやって運んだのか、なぜ、その岩でなくてはならなかったのか…まだまだ研究途中なんですって。」

 ぼくは話を聞きながら、しだいに興奮で目が輝いてきているのを意識していた。
 昔から、そういう「不思議系」が大好きだったのだ。
 実はいうと、ストーンヘンジのことはテレビで見たり、本を読んで知っていた。昔は祭事場だったのではないかとか、墓ではないだろうかとか、いろいろ言われているらしい。
「お、叔母さんっ。ストーンヘンジにも行くの?!」
 ぼくは叔母さんにすり寄って聞いた。やや興奮気味だったので、手に持っている本が握りしめられてしわになったかもしれない。
 叔母さんは最後の小梅を食べながら、にっこり笑った。
「当然よ。一度は本物を見ておきたいじゃない?」
「わぁ!本当に?ぼくも見てみたかったんだ!お城にも行けるのかな?」
「そうね、ロンドン塔なら市内にあるし、行きやすいけど、ウィンザー城とかも行ってみたいわよねー」
 おばさんは、お弁当の殻を袋にいれて口をぎゅっと結んだ。
「すごい!やっっったぁ。行きたい!ぼく、行ってみたい!」
 嬉しそうに本を開いたぼくに、おばさんを微笑んで言った。
「でしょ?そうね、予定に入れておきましょ」

 その後は、成田空港へ着くまでぼくはガイドブックに被り付くようにして読みふけ、おばさんの『子供なんてチョロイw』的なニヤリ顔なんてまったく気が付いてなかったんだ。