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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 起きたことに僕はショックを受けたりはしてないけど、〈ミラーズ〉が現れたって問題は深刻だ。いくら鳴海が頼りになるって言っても、こんな普通の人から見たら超常的なものに巻き込んでいいのだろうか?
 巻き込みたくなって気持ちもあるけど、少しでも誰かの手を借りたいっていう気持ちもある。だって僕だけじゃなにもできないんだ。本当に僕は無力だよ。
 それにこれは僕だけの問題じゃなくて、渚にも関わりのあることなんだ。鳴海がいてくれたら渚を支えてくれる。少しでも渚を支えてくれる人がいれば僕も助かる。
 話すだけ話そう。深く関わるかどうかは鳴海に任せよう。ずるい方法だと思うけど、それがいいと思う。この流れから言っても、僕が話さなくても渚はきっと鳴海に相談するはずなんだから。
 渚がコップ3つと1リットルのペットボトルを抱えながら帰ってきた。別の意味でついていけばよかった。
「あ、おっとと、あっ、あっ、ペットボトルがすべり落ちる!」
 渚が叫んだ。
 慌てて僕はペットボトルをつかむ。
 落ちそうだったのはペットボトルだけじゃなかった。
 落ちそうになったコップを鳴海が受け取った。
 危なかった。
 渚は笑って見せた。
「あはは、涼も愛ちゃんもありがと♪」
 いつも渚だ。こういう姿を見ると安心する。でも、こういう姿を見てしまうと、このまま話をしないで帰りたくもなってしまう。
 逃げれるものなら逃げたいよ。
 きっとそれはできないことなんだ。
 渚がコップにジュースを注いでくれた。グレープの匂いがする。
 今まで気づかなかったけど、すごいのどが乾いてるみたいだ。いろいろあったし、けっこう歩いたりもしたからな。
 一気にジュースを飲み干した僕を見て渚が笑っていた。
「涼、飲むの早〜い。あたしまだ一口も飲んでないのにぃ」
 そう言いながら渚がコップに口をつけようとした瞬間!
「キャーーッ!」
 渚の絶叫と共に持っていたコップが宙を舞った。
 そのコップから伸びていた人間の腕!?
 突然のことに僕は動くことができなかった。
 ジュースが飛び散って溢れ、床に叩きつけられたコップが割れた。
 もうそのときには腕なんてなかった。
 目の錯覚だったって思えるくらいの出来事だったけど、目撃者はひとりじゃないんだ。
 僕は渚の身体を抱きしめた。
「大丈夫?」
 渚の身体は酷く震えていた。
「もう……やだ……」
 震える声で訴える渚を僕は強く抱きしめた。
 鳴海はティッシュを割れたコップの上にかぶせていた。
「人間の手だったな」
 淡々としていてまったく動じてないところが、やっぱり鳴海だ。
 涙を浮かべた瞳で渚は僕を見つめた。
「早くどこかに逃げようよ!」
 僕の服をつかむ渚の手に力が入った。
 渚の気持ちはわかる。でも――。
「どこに行っても同じだと思う。ここを離れたいのはわかるけど、変に動かない方がきっといい。まずは鏡になりそうな物を全部隠そう、そうすればきっと大丈夫……大丈夫だから」
 鏡が関係あるのか確証はないけど、どこに行っても同じって言うのはあってると思う。
 鳴海が僕に尋ねる。
「鏡になりそうな物を隠せばいいのだな?」
 僕がうなずいて見せると、深く理由も聞かずに鳴海は素早く行動した。
 窓のカーテンをしっかりと閉める。小さな鏡なんかは隠してしまう。テレビには布を隠せた。鏡面になりそうな物はとくにかく手分けして隠した。
 さっき腕が出たコップの縁は大きめだった。ギリギリ腕が出せるくらいだ。それを考えると鏡面から出てくるときは、ある程度の物理法則に従わなきゃいけないのかもしれない。身体の大きさよりも小さい場所から出てこられない。
 本当にそうなのか?
 電車のときはどうだった?
 あれは出てきたと言うより、そこにいた人と入れ替わったって感じだった。
 考えても駄目だ。そもそもさっきの腕は〈ミラーズ〉だったのかもわからない。とにかく鏡面は危険な気がする。
 鳴海が真剣な面持ちで僕を見つめてきた。
「あれが原因か?」
「もっと酷いことがあったんだ」
 さっきのあれは起きて欲しくなかったけど、あれがあったことで話しやすくはなったと思う。コップから人の手が出てくる光景を見たら、どんな話だって信じてもらえるだろう。
 僕は電車の中であったことを鳴海に聞かせた。ただし僕が元々知っていたことは伏せることにして、見たままのことを話すことにした。
 話している間、渚はずっと僕に抱きついたままだった。震えが伝わってくる。
 一通り話し終えてから、僕は周りの反応を待った。
 深くうなずいて口を開いたのは鳴海。
「正体不明の異質な者に狙われているのはわかった。狙われているのは渚か春日か、それとも2人共なのかはまだわからないな。なにか心当たりはないのか?」
 心当たりと言ったら僕は前の世界で〈ミラーズ〉たちと関わっている。渚も関わってはいたけど、そこまで深いところまでは関わってなかった。
「実は……あいつらは〈ミラーズ〉って言うんだ。人攫いをしていて……それ以上のことは僕もよくわからないんだ」
 それ以上のことは整理できていない。
 〈ミラーズ〉の目的。
 前の世界で〈ミラーズ〉たちを操っていたのは……水鏡紫影先生だった。
 渚と鳴海に前の世界のことも話すべきなんだろうか?
 前の世界では謎の〈鏡〉を使って水鏡先生が〈ミラーズ〉たちをつくっていた。つくっていたという表現が正しいかわからないけど、とにかく人をさらってそのそっくりな〈ミラーズ〉を作ってたんだ。
 目的は全ての人の悩みを解消するとか……だったと思う。いまいちその辺りははっきりしない。なんだかわからないうちに終わって、僕は変わってしまった世界にいたんだ。
 渚が僕を見つめた。まだ不安そうな表情をしている。
「あたしたちを助けてくれた人は誰だったんだろう……涼は知ってるんでしょ?」
「名前くらいしか知らないんだ。とにかくどこからともなく現れて〈ミラーズ〉と戦ってる。僕が知ってるのはそのくらいなんだよ」
 僕だってわからないことだらけなんだ。
 しばらく誰もしゃべらなくなって、やっと鳴海が口を開いた。
「相手のことがわからない以上は、こちら側は守りに徹するしかないな」
「そうだね僕もそう思うよ」
「今日は2人とも私の家に泊まるといい。両親は何日か帰ってこない予定だからな。こんなことを大人たちに話しても信用してもらえないだろう。そうなれば私たちで解決しなくてはいけなくなる」
 私たち……か。やっぱり鳴海は協力してくれる気なんだ。そうなると思っていたし、そうなることを望んでいた。でもやっぱり巻き込んでしまったという罪悪感はある。
 大人たちに話しても無駄っていうのは当たってると思う。両親ですら他人に思えるこの世界じゃ、みんな部外者に感じてしまう。渚が近くにいなきゃみんなぼやけてしまう。
 こうやって協力してくれようとしている鳴海だって……。
 最後は自分しか頼りにならないんだ、きっと。