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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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厠の華子さん

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 茜の叫び声とともに、風彦が動いた。
「御免、白衣霊呪縛!」
 風彦が着物の懐から経典らしき物を取り出した刹那、折りたたまれていた経典が蛇腹状に開き、鎖のようにあさみの身体に巻き付き縛り上げた。
「くっ、なにをする小僧!」
 あさみの口からあさみの声ではない別の女の声がした。それを聞いた風彦は確信したように頷いた。
「ふむ、新垣殿は憑かれてるみたいでござるな――悪霊に」
「くくくっ、そのとおりだ。この娘の身体は今や私のもの」
「わかってるでござるよ。……だから除霊させてもらうよ」
 誰知れず気を孕んだ風が吹いた。
「ただが魔導学園の生徒ごときが私を祓うだと?」
「たかが低級霊ごときを祓うなど造作もない」
 流れる映像でも観るかのように、茜は一部始終を整理しきれていない頭で眺めていた。今わかることは、あさみがいつものあさみじゃないことと、風彦がいつもの風彦じゃないことだ。
 そういえば、風彦はいつもかけている牛乳瓶の底みたいなレンズの眼鏡をかけていない。前髪で目元を隠してしまっているので、いつもとさほど変わらないが、もっと根本的な部分でいつもの風彦と違うような気がする。いつもはもっと陰湿で人としゃべるのが苦手で度胸もない。
 でも、今の風彦は?
「貴様の身体を縛っているのは白衣神咒。一字一句に霊を封じる力がある除霊専用の経文のようなものだ」
「小僧、早く私を解放しろ!」
 経典に縛られた身体を動かそうとするが、思うように身動きが取れない。憎悪に顔をゆがませ、あさみが歯を鳴らしながら風彦を睨んだ。
 いつも猫背の風彦が今は背筋を伸ばして立っている。意外に長身で、普段はやせ細っているようにしか見えない身体が、スリムに綺麗に見える。
 今の風彦はいつもと違ってカッコイイ――そんなことを思いながら茜は少し顔を赤らめ、ばからしいと思って頭を振って気を取り直した。
 前髪で目元を隠し、唯一風彦の表情を読み取れる口元が緩んだ。
「仮初の客を相手している暇はない。南無大慈大悲救苦救難……」
「くっ、くわぁっ!?」
 風彦が呪文を唱えはじめてすぐ、あさみの身体からなにかがすっと抜け、巻きついていた経典が消え、力を失ったあさみは崩れるように床に倒れた。
 そして、風彦もまた、力を使い果たしてしまったのか、床に膝を付いて倒れてしまった。
「大丈夫、二人とも!?」
 すぐに駆け寄って来た茜に、最期の言葉かのように風彦が喉の奥から声を発する。
「……お、お腹痛くて死にそう」
 持病の腹痛が再発したのだ。
「やっぱカッコ悪……蓮田くん」
 一〇〇年の恋も醒めてしまうような感じだったが、それでも友人のあさみを助けてもらったこともあるので、床に膝を付いて風彦の身を案じようと手を伸ばした瞬間だった。
「ぐはーっ!」
 真っ赤な血飛沫が風彦からほとばしった。
「どうしたの蓮田くん!?」
 まさか、風彦の身体に悪霊が!
「パ、パンツ見えているでござるよ」
「は?」
 風彦から出た血は、極度の興奮による鼻血だったのだ。
 沸々と湧き上がる怒りが、今、拳に宿る!
「ふざけんな!」
 茜パ〜ンチ、炸裂!
「ぐはーっ!」
 再び風彦の鼻からほとばしる鼻血。
 放物線を描いてぶっ飛ばされた風彦の身体は、床にドスンと落ちてノックアウト。口から泡を吐いて、身体を痙攣させている。
 一発KOウィナー茜!
 カンカンカンカンと終了のゴングが風彦の耳には聞こえた。もちろん幻聴。
 怒りを拳に込めて放出させた茜は、すぐに冷静さを取り戻し、そのことによって混乱してしまった。
「だ、大丈夫、蓮田くん!?」
 気絶した風彦に駆け寄り、茜は彼の頭を抱きかかえた。
「しっかりして、殴っちゃったのは、つい出来心で悪気あったわけじゃないの……あれ?」
 ――眼鏡をかけている。
 さっきまで眼鏡をかけていなかったはずの風彦が、いつの間にか眼鏡をかけている。
 眼鏡の奥に隠された素顔を見たい。そんな衝動になぜか茜は駆られ、風彦の眼鏡に手を伸ばした、そのときだった。
「……お……おっ……」
 風彦の口元が微かに動いた。意識を取り戻したのか?
 なにかをしゃべろうとしている風彦の口元に茜は耳を近づけた。
「お、お腹……痛い……死にそう」
「は?」
「危ない……早く逃げるでござる」
「えっ?」
 茜には風彦の腹痛の意味がわからなかった。邪気を感じると腹痛を起こす特異体質。そのことを茜は知らない。
 ミサキ風が吹いた。
 空間が《向こう側》から破られる。
 音にならない悲鳴がどこからか聞こえ、茜はわけもわからず両耳を強く塞いだ。
 鬼門が無理やりこじ開けられたのだ。
 紅いクレヨンで描かれた魔法陣の真上になにか巨大なモノが現れた。
 それは巨大な手だった。
 赤黒く筋肉質な手に肉を引き裂くための鋭い爪が生えている――鬼の手だ。
 鬼気が吹き荒れ、人間など一掴みにしてしまう巨大な鬼の手が、恐怖のあまり身動きできない茜の身体に伸ばされた。
「いやーっ!」
 絶鳴が木霊した。