小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Under the Rose

INDEX|6ページ/68ページ|

次のページ前のページ
 

02.通り雨(1/4)



その日は朝から、冬の訪れを告げるには不釣合いな雨が降り続いていた。

どこにでもあるマンションの一室。その一つの空間の中で、二人は生活している。
必要最低限の家具、そして荷物。あまり生活感を感じられる部屋ではない。

ベランダに続く窓のそばでは、桂が一人立ち尽くしている。
その視線は窓の外に固定されているが、どこか一箇所を凝視しているというわけでもない。
どこかぼんやりと、曖昧な視線を外に投げては何かを思索しているようだった。
そして、そこから少し離れて、小さなテレビの前で足を投げ出しているのは姉の沙耶。
時折退屈そうに足をぱたぱたと動かしては、桂のほうをちらりと見る。
が、なにかを考え込んでいる桂への話の切り出し方が見つからないらしく、しばらくするとその視線はテレビの方へと戻ってしまう。
何度かその行為が繰り返された。

「雨、止まないね」

結局、桂の視線の先にあった雨の話題を出した。
桂にとって雨が降っているか降っていないかなんてどうでもいい事だということは沙耶には予想できていたが 、他に思いつく話題がまったく無かったのだ。
話が途切れてしまってもいい。
桂の意識がこちらに向きさえすれば、話を続ける選択肢はいくらでも浮かぶはずだ。

「……」

わずかな期待は、一瞬で無駄になった。生返事をするどころか、桂の耳には沙耶の声一つ届いていない。
「(どうしたのかなぁ)」
不思議に思い、桂を注意深く見つめる沙耶。つま先から頭上……を通り越して、天井まで視線は移動する。
最後に窓の外を見てみるが、いつも通りの景色が、降り続ける雨によってぼんやりとしているだけだった。
けれども、桂の視線はそこから動かない。
「桂ちゃ―――」
耐えかねて、腕を伸ばしたその時。
二人の間に、この空間にはあまり似つかわしくないような電子音が鳴り響いた。
先ほどまで声をかけても反応しなかったというのに今回の反応は早く、桂はすぐに視線を部屋へと戻し
そう遠くない位置にあった携帯電話を手に取った。
「誰」
いかにも不機嫌そうな、愛想のかけらもない応対だった。
それも無理はない。
というのも、桂が持っている携帯は彼女のものではなく、仕事の都合上連絡がとれないと困るということで
なかば無理矢理持たされたものだからだ。『電話は嫌』と最後まで抵抗していた桂だったが
それなら情報はまわさないと返されしぶしぶ借りている。
相手も桂の電話嫌いをわかっているために必要以上のやりとりはないにしても、桂にとって嫌な事に変わりない。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴