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Under the Rose

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01.双星児(3/4)



「ご苦労様だね。桂、それに沙耶。後はまた連絡するから、今夜は帰ってくれて構わないよ」
「ええ。また何かあったらまわして頂戴」
「誰よりも優先して君たちにまわしてるんだよ、これでも。問題なんてそうそう起きないからね、そのあたりは分かってくれ」
「……別に文句を言ってるわけじゃないわよ」
「わかっているさ。しっかし、好んで吸血鬼と関わろう――どころか裁こうなんて思ってる娘さんははじめてだよ」
「色々、あるのよ」
「ああ。これ以上は詮索しないさ。それがここのルールだからね」

夜明け前、桂とその姉――沙耶は、ひっそりとしたある部屋を訪れていた。
狭く、風通しが悪いのか空気がこもっているその部屋は、言ってしまえばカビくさい。
部屋のすみにある鉢植えの植物は、もはや何という植物なのかわからないくらいしなびてしまっている。
唯一の窓のそばには、書類などが乱雑に置かれた机。そして椅子が一つ。
その椅子に腰かけている桂の向かいには、車椅子に乗った青年が一人。
人当たりがよさそうな雰囲気ではあるものの、いまいち頼りにはならなさそうな人物である。

二人から少し離れた位置に立っている沙耶は、同じように自分のそばに立つ少年と会話を交わしていた。
少年の年齢は、おおよそ十七ほど。やんちゃそうな出で立ちが更にその姿を幼く見せている。
「でもさ、やっぱすげーよなぁ! 姉ちゃん達、そういう臭いでもかぎ分けられたりすんの?」
携帯用のゲーム機をいじりながら、少年が生き生きとした様子で沙耶に問いかけた。
視線を一瞬上げたものの、「やべっ」と漏らしすぐにその視線は手元のゲーム機へと戻される。
「あはは、無理無理。わたし達は犬じゃないからね」
「そうだよなぁ……でもかっけえよな、俺もはやく姉ちゃん達みたいなハンターになりてえなあ」
その発言には、気遣いも曇りもなかった。「なれるかな?」と無邪気に笑う少年を見て、沙耶も自然と笑みをもらす。

「姉さん、行きましょ」
いつのまに話を終えていたのか、自らのマフラーを巻きなおしながら桂が沙耶の身体を ぽん、と軽く叩く。
「うん。じゃ、またね」
まるで子どものように手を振る沙耶。それを見、部屋の奥にいた青年が軽く手を上げた。
ワンテンポ遅れて、ゲーム機から目を離し顔を上げた少年がぶんぶんと手を振り返す。
早朝、やっと世の中の一日が動き始める時間。
ぱたりと扉が閉まる音がして、その部屋はまた静寂に包まれた。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴