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海竜王 霆雷11

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「あのな、俺、さっさと二百年過ごして、神仙界を見聞したいって思ったんだ。・・・確かに、人間界の景勝地も綺麗だとは思うけど、こっちのほうが、すごいものがありそうだし。親父さんもお母さんも、元気だから、代替りするまで時間もあるだろうからさ。もう、人間はいいよ。」
 あっさりとした言葉だったが、美愛も、隣りで頷いている。どんな話をしたのか、わからなが、ふたりして、そういう結論に行き着いたらしい。やはり何も無いということは強い。これから、新しい場所に移るということに躊躇しない。頼もしい態度だ。このまま、その性質を変えないように、育てようと、夫婦は思っていた。長と同等の地位になる水晶宮の主人には、その態度は相応しい。
「では、竜におなり、彰哉。」
「ああ、竜になって、親父さんを超えるぜ。」
 不遜なことを生意気に言い放つ彰哉に、夫婦ふたりして爆笑した。
「あなた様、彰哉は最初から、『水晶宮の小竜』というふたつ名を冠せられる。」
「ほほほほほ・・・・それは喜ばしいことですわ、あなた様。彰哉、存分に暴れなさい。母が相手をしてさしあげますよ? 私を超えねば、私の背の君には敵いませんからね。ほほほほほ。」
「それより、私が、お相手をいたします。私より父は強いのですからね、彰哉。」
 同様に美愛も笑っている。その娘に目を細めた。自分は、唯一甘えられる相手を選んだ。誰よりも強かった自分は、一番だったから、誰にも甘えられなかった。優しくて強い夫は、好きなだけ甘やかしてくれた。娘は、共に並び立つ相手を選んだ。黄龍は、自分が欲しいものしか選べない。娘が欲しかったものは、おそらく対等に戦えて、対等に話し合える相手だったということだ。





 彰哉は、黒竜になった。ただし、普通の黒竜ではなく、その鱗は深くどこまでも闇色だった。周囲の光をも吸収するかのような黒色に、誰もが、驚いた。
 黒竜は、水を司る。それには、雷も附随している。まだ小竜なので、雷の程度は、大したものではないが、成人すれば凄まじいものとなるだろう、と、予測される力があった。そして、有り余る体力と、人間としての超常力まで備えているのだから、黄龍の相手として、非の打ち所が無いとまで賞賛された。
「どこから始めたい? 」
 深雪が、彰哉に、そう尋ねた。深雪は、精神的な未発達が著しかったので、小さな子供に戻されたが、彰哉は、そこまで戻す必要は無いと思っていたから、本人に尋ねたのだ。
「子供からがいいよ、親父さん。・・・俺、家族ってもんを最初からやってみたいからさ。」
 生まれながらに家族が居なかった彰哉にとって、家族というものは、何も知らない。だから、途中からではなく、最初から家族になりたいと願った。それなら、と、華梨も、彰哉の願い通りに、小さな竜にしてやった。
「好きなだけ甘えてよいのです。これから、私が、おまえの母親ですからね。・・・・悪いことをすれば、叱ります。時には体罰も与えるでしょう。けれど、それは、おまえを、より良き方向へ導くためにすること。苛めているなどと考えてはいけません。それから、彰哉は、竜になったので、人間だった時の名前は、全て捨てて新しい名前と字を授けます。今後は、そちらで呼びます。よろしいですね? 」
 名付けは、長に頼んだのだが、長は苦笑して、「今度は、おまえがつけてさしあげるといい。」 と、やんわりと辞退された。同じように婿入りする相手だから、深雪のほうが、相応しい名前を思いつくだろうと、いう理由だ。

 毎日、竜へと変化する彰哉を眺めて、いろいろと書物を漁った。長兄は、自分が人間だった段階で名前を考えてくれた。予想していたのか、白竜には相応しい字だった。妻にも意見を求めたが、「あなた様の思う名前を。」 と、勧められた。あの黒竜は、成人すれば、そのカリスマ性も開花する。誰もが平伏するほどの威圧感を、自分のものにしたら、さぞかし神々しい姿となるだろう。それを象徴するような名前がいい。毎日、考えて、ようやく、彰哉が完全に竜になった頃に、名前を決めた。


「彰哉、これから、おまえは、敖英 (あお・いん)という姓名と、霆雷(てぃえんれい) という字で呼ばれる。普段は、字で呼ばれるので、よく覚えておきなさい。」
 一枚の紙に書き付けた名前を、小さくなった彰哉に手渡した。七百年ほど前に、長兄から自分が与えられた名前を紙に書き付けてくれた時は、とても複雑な気分だった。これで、自分は人間としての縁の全てを終えると覚悟した。だが、彰哉は、「へぇー」 と、その紙を眺めて、「格好いいな、親父さん。」 と、笑っただけだ。
「これから、俺が、おまえの父親だ。頼りない父親だけど、よろしく頼むよ。」
 抱き上げて、そう告げたら、霆雷は、「こっちこそ、頼むぜ、親父。」 と、小さな手で肩を叩いた。自分の時と違って、あっけらかんとしているのが、救いだと思う。恋しくて悲しくて、それでも、どうにもならない事実に慟哭した自分は、どれほど、周囲の胸を痛めたかわからない。それを鑑みれば、小竜の態度は、痛みをもたらさない。

 最後の子供を育てて、自分は、ようやく、竜の理を全うする。竜になって、成人するまで、絶対に死んではならないと戒められた。成人してからも、五人の子供が成人し、次代の頂点となるまで、生きながらえろと教え込まれた。それは、竜族を維持するために、必要なことだった。この腕の中の小竜が成人したら、それらの戒めから解放される。
「さっさと、俺を超えてくれ。そしたら、俺は華梨と楽隠居させてもらう。」
「冗談だろ? 俺は、成人したら、とりあえず、神仙界を探検するんだから、親父は、その間、俺より強くなくちゃダメだ。」
 バンバンと乱暴に、小竜は自分の肩を叩く。すでに、言葉では負けているような気がする。小さい頃の自分は、言いたい放題だったが、こんなことを父親に言い放つほど、強くはなかった。
「・・・おまえ・・・すでに、俺より強いと思うぞ。」
「そんなことはない。竜になって、親父の強さは、ひしひしと伝わってる。」
 竜となって、変わったことのひとつに、人型の背後に、その人物本来の姿が映し出されることだった。竜族というのは、竜だけではないのだと、その時、初めて、霆雷は知った。背後に浮かぶものは、赤い鳥やワニのようなもの、大きな貝など、様々だったからだ。そして、自分の父親のあの銀白色の竜は、その中でもずば抜けて美しく、強い波動だった。美愛が、一番強いと自慢するのもよくわかった。ほとんど、竜型をとることがないというのも、美愛から聞いた。水晶宮という竜族の本拠地の守護が仕事だから、本来、戦う必要はないのだそうだ。だから、美愛は、父親の本来の姿を目にできなかったことを悔しがったのだ。
「霆雷、おまえは、俺を超えるさ。・・・すぐにな。好きにおやり。」
 自分より、やんちゃな小僧が、手元に居る。もう、これは、笑うしかない。自分が無事に水晶宮の主人としての仕事を終えれば、今度は、次代の長よりも強力な水晶宮の主人が誕生する。これで、竜族は、誰憚ることなく、神仙界の頂点近くに君臨しつづけられるだろう。
「うん、好きにやるさ。」
作品名:海竜王 霆雷11 作家名:篠義