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虚構世界のデリンジャー現象

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木虎と横森とPSPと氷砂糖




時折、木虎は氷砂糖だけで生きている時がある。
氷砂糖だけというと語弊を招きそうだが、氷砂糖が燃料なのかと勘違いしそうになるくらいにひたすらに氷砂糖を貪り続ける時があるのだ。一応、真人間らしい食生活をしているはずなのに。
純度の高いショ糖の大きな結晶を舐めて噛んで、咀嚼する。ぼりぼり、ぼりぼり。ぼりぼり、ぼりぼり。一つ食べ終えたら、また一つ。
その光景は氷砂糖を木虎が嗜好品として味わっているというよりも、単純に手っ取り早く脳みそに栄養を与えているように横森には思えたが、それを横森が木虎に向かって言ったことはない。
横森は基本、無駄口は叩かない。思っても、口に出さない。言葉遊びの類は好む人間だが、言葉遊びと無駄口は別だ。
ぼりぼりと生徒会室に木虎が氷砂糖を噛み砕く音が響くのを横森は資料に目を通しながら聞いていた。もうかれこれ1時間以上、その音は鳴りやまない。
木虎はあの見るものが見れば何をプレイしているか一目でわかる独特の指使いで一心不乱にPSPを操作していて、その手つきは淀みないとは言い難く、一言でいうなら下手くそだった。時々、画面の中の視点につられるらしく木虎の身体が傾いたりもする。
それをおもしろく思いながら、糖尿病にならないかしら?と横森は思った。やはり、糖尿病に関しても身体が傾いていることに関しても横森は口には出して指摘しなかったけれど。
その代わり、ちょうどよくケリがついた資料をクリップでまとめて席を立つと、自分のついでに横森に見向きもしない客人に飲み物の必要性の有無を問いかけてみた。氷砂糖は何気に口内の水分を奪われるのを、横森は知っていた。何故なら、木虎に貰って一欠けらだけ食したことがあるからだ。
「木虎ちゃん、何か飲む?」
「んー」
「珈琲でも淹れましょうか」
「んんー、あ、ちょ、まっ!」
「ブラックでいいかしら?」
「ちょ、ほんと、まじやめて!ギギネブラさんマジやめて!」
「ドリップは残っていたかしらねぇ」
完全に横森の話を聞かずにぎゃー!と奇声を上げる木虎に肩をすくめて、本当に木虎が飲めないブラックコーヒーでも淹れてやろうかしらと横森は思った。
けれど、ドリップコーヒーを入れる手間がめんどくさかったのもあってあまりにも無意味で無駄にしかならない悪戯はやめ(悪戯を止めた理由の比重は8割くらい前者だ)ちょうど目に付いた緑茶のティーバッグの封を切り、勢いよく生徒会室に常備されているポッドからこれまた誰かが持ち込んだティーポッドに勢いよく湯を注ぐ。
ぼりぼりという音と、木虎の奇声は一瞬だけポッドの湯に掻き消され、視界がが湯気で曇った。
(あの調子だと、また負けそうね)
一向に、木虎のハンターレベルはあがらない。

 *

氷砂糖とモンハンと一つのことに集中すると周囲の言葉が聞こえなくなる木虎ちゃんの話。
たぶん木虎のPSPは赤。なんとなく。

初出:2011/04/18 (Mon)