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小太郎の飛行機旅行

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北海道(2006年)


 フ――ッ
 連日の酷暑に小太郎は死んだように、白目をむいて横たわっていた。
 エアコンを持たない主義の私は、保冷剤を包んだ濡れタオルを首に巻きつけ、あられもない姿で家の中で最も風通しのよい場所に座り、コミック本を読んでいた。
 とろけた脳ミソには、マンガを読むに限る。
 手塚治虫作品のほとんどと高橋留美子作品のすべてを有しているので、夏になると飽きもせず繰り返し読みふけって笑い、登場人物になりきったりしているのである。
 そんな日々を過ごしていたのだが・・・

『もしもし、下旬に札幌で仕事があるんやけど。盆明けに夏休みが取れそうやから行くか? レンタカーになるけどな』
「行く行く、涼しいとこに行きたいわ〜。もう暑うて小太郎と一緒に半分死にかけてる」
『千歳空港で待ち合わせやで。チケットの手配しとくさかい。民宿かコテージやから、それも予約しとくわ。盆明けやから空いてる思うで』

 こうして、8月19日から5泊6日の北海道旅行が始まった。
 夏休みで暇を持て余している息子に送り迎えしてもらうこととした。
「ほな、戸締りと火の用心、たのんだで」
 空港で降ろしてもらい、小太郎を引っ張ってカウンターへ向かった。

 8月19日は土曜日。伊丹空港発8時30分である。

 私は失念していたのだが、小太郎は1年前の事柄をしっかり覚えていたようである。
 ケージを前に、尻を下げ四肢を踏ん張っている。
 背中にまたがって前あしを持ち上げ、前に進める。そして、ケージの中に入れようとした瞬間、反動でケージはスーッと下がっていく。

――もう! しっかり押さえといてえな!
と心の中で叫び、ニッと係の女性を見やる。女性は元の位置に台車を戻してはくれるのだが。
 数回試みたが小太郎はますます力み・・・・・・

 周囲を多くのビジネススーツが取り囲んだ。
――だれか、台車を持っといて
と、口にすることができない。
 スーツは喋れないのだ。ただ、スーツの上に乗った顔から好奇の視線を感じるだけである。

 仕方がない、猫のかぶり物を脱ぎ捨てることにしよう。
 足を大きく開いて左足を台車の前輪に引っ掛け、左手で首輪ごと首の肉を、右手で腰の皮をむんずとつかみ、金剛力士(仁王)になりきって形相すさまじく(たぶん)
「ヌォ―――オ!」
渾身の力を出し切ってようやくケージに入れることができた。
 係員はほっとした表情で台車を押して行った。
 ビジネススーツは三々五々に散った。

 ひとりたたずむ私は、全身汗まみれ。小太郎の長い毛がTシャツ・ズボンだけでなく、顔や腕にもびっしりはりついていた。

 そしてまもなく、観音菩薩に戻った私は機上の人となったのである。

 北海道編はこれで終わったようなものだが、もう少し進めることにしようか。
作品名:小太郎の飛行機旅行 作家名:健忘真実