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夢と現の境にて◆参

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「あ、終わったか?」

出口で携帯を弄っていた間宮が、ひっそりと出て行こうとしていた俺を視界に捉えてしまった。ちっ、と心の中で軽く舌打ちを打つが、「行くか」と声を掛ける間宮を振り切ることができるわけもなく、仕方なく帰路を並んで歩き始めた。

「…重そうだな。」

早くも何メートルか歩き出した所で間宮が言う。それもそのはず。情けないことに既に息が上がり、腕もみしみしと音を立てるように痛い状態に、俺はある。ここまでの道のりに何度買い物袋を持ち直したことだろう。しかし、これだけは、と決心を固めていることがある。ギラリと鋭い視線で隣の男を睨みつける。

―――ぜっっったいに、一人で持ち帰ってみせる…!!

既に「持ってやろうか」と言い出しそうな気がしてならない。今までだったら何も言わず、俺から袋を取り上げていただろう。が、今回はそうはさせない!俺だってこれくらい一人でできる!と、意気込んでみせる。情けのない姿に変わりはないだろうが、心根は強く持ち、最後まで運んでみせると、袋を持つ事と歩く事だけに集中する。その際、間宮は黙って隣を歩いていた。偶に、こちらを見る視線を感じる事はあるが、一向に手伝おうか?と言ってくる気配がない。一体どうしたというのだろう…。
ふと、チラチラと横目で間宮を見ていると、今更ながらに思った事がある。そういえば、なぜ間宮が買い物をしているのだろう?なんだか慣れているようにも見えた。買い物係にでもされているのだろうか?しかし、飯を作る人が買い物するもんだとばあさまが言っていた。買い物をしてる最中に、食いたいものが変わるだからとか、そのときによって買わなければならないものを思い出すからとか色々聞かされたが。そう疑問に思ってしまえば、俺は歩く事持つ事に向けていた神経を、少し間宮と話す方へと向けて見ることにした。

「なぁ…、その、間宮って買い物いつも来てんの?」
「ん?まぁ、そうだな。飯も俺が作ってるし」
「え!?全部?朝昼晩?」

驚きの応えに俺は続けさまに質問をぶつけてしまう。持つ事歩く事より、間宮との話に気が完全に向いてしまった。

「ああ…。そんなに驚くことか?」
「だって、そりゃ…。母親とかが作るもんじゃないのか?」

そう言った時、間宮の表情が少し曇った気がした。俺はというとそれを見た途端に、あっ!と我に返ったように心の中で叫んでいた。しまった…、間宮が気を使って聞いてこなかった家族の事を、俺が聞いてしまった…!!いくら疲労困憊していたとはいえマヌケすぎる。俺は慌てたように話を逸らす事を考えた。

「あーえっと、子供が作ることだってある――
「俺の母親は離婚して、家にはいないんだよ。」

俺が必死に話している最中に、間宮がそう言い切ってしまった。まさかとは思っていたが、本当にそうだったとは思わなく、聞いてしまった事に酷く後悔した。そんな俺の様子を思ってか、間宮が隣で小さく笑った。

「気にすんなよ。そのうち話そうと思ってたんだ…。狭霧より辛い話でもない。」
「そんなことない!」

辛い話でないと言う間宮に、俺は無意識にも大きな声を上げた。案の定、間宮が驚いた顔をする。が、俺はそれに構わず喋り続けた。

「辛くないことなんてない…。人それぞれ感じ方も違うし、体験することも違うけど…。絶対にこういう大事な事を他人と比べるようなことしちゃいけないっ…。自分で言うのも、他人に言うのもいけないことだ…」

言っている間に昔のことを思い出した。俺が変な子扱いされたり、身体が弱かったとき、色んな人と比べられたり、蔑まれたり、兎に角色んな事を言われた。それは決してしてはいけないことだと、誰も嬉しいことではないと、ばあさまに強く言われた。勿論、世の中にそれが絶対必要ないといったら嘘になる。向上のため、発展のため、成長のため。なんにでも比べることは基本だ。…だけど。

「親がいないこと、色んな不幸があることは自分たちのせいじゃない時だってある。開き直るのも強がるのも必要だけど…実際にそんなこと言うなよ、間宮。」

―――そうじゃないと、忘れてしまうから。

そう呟いた声は果たして間宮に聞こえただろうか。俺が言い終わっても間宮は何一つ返事を返さなかった。ただ黙々と、人通りの少ない道を歩いていた。

「狭霧」
「え?」

突然掛けられた声に顔を上げた。見ると、間宮の顔はこちらが予想もしていないような、あの、最初会った時に見せた、優しい…穏やかな顔をしていた。

「そこの公園で、少し話さないか?」

間宮が指差す方向に、近所の公園が見えた。夕暮れ時で、既に子供の姿は見えなかった。

「いいけど…」
「よし」

返事を聞くなり、間宮は公園へと入っていき、傍にあったベンチに腰掛けた。ふと俺の買い物袋を見て思い出したようにこちらを向いた。

「なんかすぐ冷蔵庫いれなきゃなんないものとかあるか?」
「え?あー!……大丈夫」

すぐに肉!と思ったが、結局買い忘れていたことに気づき、気が抜けたようにベンチへと座り込んだ。間宮が不思議そうに俺を見たが言いたくなかったので直ぐに前に向き直った。

「俺は忘れたかったのかもな…」
「え?」
「家族のこと。じゃないと普通な顔して生きてけないと思ってた。」

その言葉に、俺は間違ったことを間宮に言ってしまったのではないかと、急に不安になった。が、思ってた?とは…

「狭霧見てて…、違うなって思ったんだ。実際にはよく知らないけど、両親傍にいなくても、なんら変わりなく生きてるように見える。勿論、色々あるからかもしれないけど…。」

そういうところに憧れてんだ。と、間宮が言った。

「憧れ…?」
「嫌でもそうならなきゃいけないってこともあるだろうけど、だからって簡単になれることでもないと、俺は思う。」

真剣な眼差しでこちらを見る間宮に俺は呆然とした。間宮が俺に憧れていた?なぜ?

「今、すごい呆けてるだろ」
「……え?あ…うん」

俺の顔を見ながら面白そうに笑う間宮に目を瞬かせる。だって、なにがなんだか。

「まぁ…理解してもらうには…、少し俺の昔話を聞いてくれると、嬉しいんだがな」

そう言って首を傾げる間宮に、俺は不覚にも知りたい知りたいと、首を縦に振ってしまった。振ってしまってから、あ!とまた心の中で叫んだ。また、こんな、人の私情にずけずけと入り込んで…!そう、思うも俺は諦めたようにぐったりと頭を垂れた。

もう、素直になりたいと思ってしまっていた。

そうして、間宮の話は始まった。


作品名:夢と現の境にて◆参 作家名:織嗚八束