小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

INDEX|33ページ/50ページ|

次のページ前のページ
 

Episode.15 黒猫



ヴェクサお勧めの”超うまいパン屋”は、それほど歩かないうちについた。
慣れた様子で、というか我が物顔で店に入っていくヴェクサに続いて鬨も店内に入る。
その瞬間、香ばしく、優しく、どこか甘い匂いが鼻孔に届く。
店内を見回すと、木でできた、使い込まれている様子のテーブルといす2つの1セットが店内の端にぽつんと置かれていた。机の上には赤いギンガムチェックの布が敷かれている。その机の手前には小さな窓があり、そこから朝の柔らかい日差しが差し込んでいた。

「あれ、おやじ?・・・・いないのか?・・・店開けっぱなしで不用心だな・・・」
「なんだ、いないのか?」
「そうらしい。しゃーない、代金置いとけばいいか」
「また出直せばいいじゃないか」
「そンなの、俺が我慢できねぇ!」
「・・・・・・・・・・・」

呆れてしまっている鬨を無視して、ヴェクサが棚を物色し始める。
その手にはいつの間にかトングとトレーが持たれており、そのトレーの上には既に何種類かのパンが乗っていた。すごい早業だ。
鬨はそんなヴェクサに呆れを通り越して脱力を感じ、先ほど確認した木製の椅子に腰かけようとした・・・・のだが、

「?」

椅子を見るとその上に何か黒い物体が乗っていた。最初は座布団かと思ったが、動いたことで違う事が知れた。

「・・・・・・猫?」

そこに居たのは黒猫だった。日が当って気持ちがいいらしく、寝ているようだ。鬨が近くに寄ってもピクリと耳が動いただけでその他の反応は無かった。人慣れしているのかもしれない。試しに触ろうとして見ると、流石に猫も気がついて目を開けた。そして、ぱちくりと開いた黄色い瞳が鬨をじっと見つめた後、「よっこらしょ」と言ってそうな動作で起き上がり、その椅子からどいた。

・・・これは、席を譲ってくれているのだろうか。

そのまま猫を見ていると、椅子の横に座った猫が「どうぞ」と言うように鬨を見た。

「ぁ・・・じゃあ遠慮なく」
「にゃぁ」

鬨が椅子に座る。
そして、椅子に座った鬨の膝に、猫が乗った。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

鬨はなんと反応していいのか解らず、しばらく固まったままだった。
猫も何の反応も示さない。見てみると、目を閉じていた。
(無理矢理)頭の中を落ち着かせると次は別の疑問が浮かんできた。

(撫でてもいいのだろうか・・・・)

そう、そこである。
実は先ほどから撫でたくて撫でたくてうずうずしているのだが、猫が嫌がらないか心配でなかなか手を出せずにいた。

(考えてもしかたないな)

猫と話せるわけでもあるまいし、ここは勇気を出して撫でてみよう。
そう決意して、猫のあごに手を持って行ってみた。
一瞬目を開けた猫だったが、すぐに閉じてしまい、試しにそのままくすぐってみると気持ち良さそうにゴロゴロとのどを鳴らしていた。
どこかほっとしながらも、その姿に癒されて少し口角が上がった。

「おーい鬨、何して・・・・!」

ようやく物色し終わったのか、ヴェクサが両手いっぱいにパンが入っているであろう袋を抱えながら近づいてきた。しかし、何かに気が付いた途端に衝撃を受けた顔になった。

「お、お前は黒猫の・・・・クロ!」
「そのまんまだな」

思わず心のうちが出てしまった。しかし、これは仕方がない。うん。

「おま、鬨・・・・恐ろしい子・・・!」
「なにが」
「いつの間にこの街のボス猫を射止めたンだ!?」
「・・・はぁ・・・?ボス猫?」
「そう」

興奮した様子のヴェクサは、そのまま語り出す。

「どこからかこの街にやってきて、この街の猫をあっという間に自分の下に敷き、餌をくれる街の住民にも懐かない、まさに一匹狼ならぬ一匹獅子!どんなにお世話になっている店の主人でも撫でようとしようものならば噛む、ひっかく、猫パンチ!それを!」

どうやって手懐けたンだ!?

そう聞かれて、素直に「何もしてない」と答えると、あらか様に疑いの目を向けられた。

「本当にか?」
「あぁ、本当に」

誤解を解くためにここまでの経過を説明すると、ヴェクサがさらに信じられないと言う顔をした。

「クロが席を譲った・・・!?そンな馬鹿な・・・?!」
「現に俺が座ってるだろ」
「ぐ・・・」

ヴェクサは「納得いかねぇ・・・」と呟いてやっと大人しく向かいの席に腰をおろした。
クロと呼ばれた黒猫は、呑気に欠伸をして鬨の膝の上でくつろいでいた。