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怨念さん

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「別に……ただの暇つぶしですよ。私は何億羽も無駄に殺された鶏達の怨念ですよ。死んだひよこの数だけ人間を殺したって構わないんですから。それが調和というものです」
「そんなわけないでしょ!」
「どうしてそこで怒るんですか?人間がそれほど重要な存在だとでも?神の視点から見ればひよこの命も人間の命も一緒ですよ。こいつが太郎君で、太郎君はいい奴だから生かしておこう、とか考えてるとでも思っているんですか?」
「いや、そういうわけじゃありませんが、命の事を言うなら、虫の方が殺される数が多いでしょう?」
「良い所を突きますね。確かに意識の大きさは怨念にとっても重要なファクターです。だから虫の死は怨念にはなりにくいし、そういう意味では人間の意識が一番強いでしょう」
「でもあなた達は目を伏せている。家畜動物の知性にですよ。豚は鏡だって理解しているんですよ?つまり自己を認識しているんです。食肉にされる際、ハンマーで昏倒させられる時には悲鳴を上げて逃げまわります。それまで農場で育ててくれた人の裏切りを嘆いているのかもしれませんねぇ」
「……あなたと話しているとイライラしてきます」
「あなたがイライラしているのは自分にじゃないんですか?人類の正当性が崩れ去ったからじゃないんですか?自分の生きている人生というドラマが素晴らしいものだと思いたいからじゃないんですか?家畜の悲惨な現実に比べれば、あなた達のやっている事は全部おままごとですよ」
「あなたねぇ!」
「まあ、続きは今度にしましょう。数日の間に何人か殺しますから見ていて下さいね」
 そう言ってバスの停車と共に、足早と男は降りていってしまった。

 私は、彼を動物愛護関係のテロリストか何かで、首相を殺したのも団体の力なのだと思った。
 何にせよ、あの男はとても付き合いにくい人間だ。もう相手にしない方がいいだろう。何人死んだって構いやしない。
 それから数日はあの男に会わなかった。何人か死んだようなニュースが流れていたが、怨念の力かどうかなんて分かりゃしない。私は考える事も放棄していた。
 
 それからあくる日、それまでの事を忘れかけて普段の日常に気持ちが戻ろうとしていた時、その男は再び現れた。
 だがいつもと様子が違い、妙にゲッソリとしていた。しかし相変わらず鞄を使って隣の席を陣取って私を招いた。
「お久しぶりですね」
「どうしたんですか?体調がよろしくないようですが……」
「私もそろそろ終わりのようです……」
「終わりって、あなたは強い怨念なんでしょう?」
「いいえ、怨念というのは嘘です」
「やはりそうですか……環境テロか何かですよね?」
「いえ、それも違います……」
「え?するとあなたは一体何なんですか?」
「祈祷師ですよ。正確には元祈祷師ですがね」
「祈祷師?祈祷師がなぜこんな事を?」
「あなたは四国の祈祷師をご存知ですか?」
「いえ、知りませんが……」
「四国は異様に祈祷師が多いんです。地元では『拝み屋』とも言われますけどね。私もそこのある団体に居ました。祈りと呪いは表裏一体で、裏の世界では常に闘争が行われているんです。私も色々と学びましたよ」
「まさか、首相を殺したのも呪いってやつですか?」
「人を呪わば穴二つ……呪いはかけた方にも返ってくるんです、それが調和というものです。全てはシナリオの一つ、首相が死ぬのも元から決まっていた事なんですよ」
「うーん……私は呪いとかは信じない方なんですけどね……」
「インターネットで検索してみればわんさか出てきますよ。最も、関わるのはオススメしませんが。金持ちが何千万円もつぎ込んで呪詛を依頼したり、すごい世界ですよ」
「でも、どうして私に怨念だと偽ったりしたんですか?」
「四国にいる時、ある日流れて来たんですよ。イメージが。祈祷師は誰しも霊感が鋭くて、稀に神と一体化したような体験をする人もいるのですが、私もそんな体験をした時、鶏達の言葉にならない思いが流れて来たんですよ」
「それは私の人生を投げ出させるのに十分な量でした。と言っても、元々私は四国の拝み屋同士の闘争で呪詛を受けて、自分の命が長くない事を知っていたんですけどね」
「そんな事が……」
「そして、最後を迎える場所をこの平和な町に決めて、ニヶ月前に引っ越してきたんですよ。でも死ぬ前に誰かと話したいと思って、最後にいつもバスで会うあなたに伝えようと思ったわけです。前にも言いましたが、暇つぶしですよ」
「凄まじい人生を歩まれたんですね。それに怨念が本当にあるとは思いませんでした」
「ふふ、でも鳥インフルエンザの事や、調和の理論はデタラメですよ。私がそう考えているだけです。信じなくていいですよ。ハハハ……」
 彼は力の無い声で笑ったかと思うと、病院のある停留所で降りてしまった。

 私はその日、会社の中で一日中思案に暮れていた。
 彼の言う事は全部デタラメで、実際はただの病弱な男だったのかもしれない。
 しかし私には、死を前にした彼が、どこか達観しているように見えた。
 
 男とはその日から会っていない。
作品名:怨念さん 作家名:ユリイカ