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ワールドイズマインのころ

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さよなら℃




気温差。
ペンだこのさかむけ。
五時前の日没。

夜になる。
夜が来る。
制服を着たまま夜になる。
そういう季節が来る。
車道を横切ったらひかれてしまうよね。
僕らは夜みたいな制服を着てる。
誰にも見えないよ。

「くらいな、」
「くらいなあ。寒いし」
「寒いね。さとうくんあっためてよ」
「さらっと言いますね恥ずかしいことを」
「別に恥ずかしいような意味じゃないもん」

校門を出たら夜だった。
なんてことはなかったけれど、夜はすぐそこまで打ち寄せていた。
誰にも見えないよ。
手をつないだって。
キスをしたって。

「ええー。どないしろと」
「じゃマフラー貸して」
「ええよ、ていうかすずきくんなんか鼻声ちゃう」
「あ、わかる?」
「うん。な行言いにくそう」
「なにぬねの」
「ははは」

自分は絶対に買わない色のマフラーをぐるぐる巻かれて、前髪をなおされて、帰り道が伸びればいいのにと思った。
指先を暖めるふりをしてため息をついた。

「ふゆきたりなばー、はるとおからじ?」
「あ、それ。好き」
「うん」
「でもなあ、春、来てほしくないな」
「うん?」
「すずきくんおらんなるし」
「……あ、そっか」
「ちょ、軽う!」
「だって、」

指先をあたためるだけで、体感温度をあげる努力をするだけで、春は来てしまうのに、ぜんたいどうしてふせぎようがあろうか。
女の子のように、スカートのプリーツのように、世界と折り合いつけられないのだ僕たちは。

「なんか最近すずきくんつめたい」
「えー。んなこたあない」
「ある」
「ないっつの。冬だからじゃないの」
「さよならする準備とかしてへんよな」
「え、なにそれ。さよならなんか、」

言いかけてよどんだ。
ふいに自分の口からこぼれ出たさよなら、に、頬を打たれた気がした。
冷たい風が過ぎただけだった。
だけど。

「……さとうくん、マフラー」
「ん?」
「いらない。やっぱ、返す」
「え、え、何?」
「寒くていい」
「なんで、」
「なんでも」
「ほらあ鼻声。んなんでもになってたで」
「うるさいよ。風邪うつるよ」
「うつしてよ」

さよならの時間はいつも夜で、さよならの温度はいつも低かった。
だけどとおからじ春にきたる今度のさよならは、明るいのだと、あたたかいのだと、そんな気がした。
夜から朝になるみたいに。

わかれ際、手をつないでキスをした。
くちびるも指先も、氷のように冷たくて、くっついて離れなくなりそうだった。