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小さな鍵と記憶の言葉

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「こんにちは」
 重量のある扉を開けば、弁護士風の聡明な女性が顔を上げる。来客の顔を確認して、たちまちその面に明るい色が広がる。

「いらっしゃい、リラ」
 優雅な微笑みが私を出迎える。どうやら執務の途中だったようで、木製の机の上で万年筆を走らせている。長い髪をきっちりと纏めた、花色のドレスシャツの女性。優しげな顔付きとは裏腹に、この『女王の間』に座る司法の長。《女王》のソフィーナ。
 私は彼女に、白兎から預かってきた封書を渡した。彼女はそれを書類の一番上に積み重ねる。
「ちょうど良かったわ。これが終わったらお茶に出来るから、少し座っていてくれるかしら」
「そんな、邪魔しちゃ悪いし」
「邪魔じゃないわよ」
 ソフィーナはゆるやかに首を振る。
「来てくれてとても嬉しいの」
 笑顔に負けてビロード張りのソファに身体を沈める。呼び鈴ですぐに蜥蜴がやって来た。どうやら今日のお茶の担当は彼らしい。着々と紅茶の用意が整っていき、それと比例するようにソフィーナの手元の紙の山も減っていく。

「おや、リラ。来ていたんだね」
 背後でドアが開いたと思えば私の名前が呼ばれる。退室していた王がどこかから戻ってきた所だった。
「おじゃましてます、ローレンスさん」
 小さく頭を下げると、彼もまた穏やかに笑う。机には向かわずにそのまま私の正面に腰を下ろした。
「どうやらいい所に戻ってきたようだ。一度お茶をしたいと思っていたのだよ」
「私と?」
 そうよ、と執務机からも相槌が返される。
「ジョシュアから貴女を招いてお茶会をしていると聞いて、羨ましく思っていたの」
 本当に、抜け駆けするなんてずるいわ。と、呟きながら頬を膨らませる。そんな少し子供っぽい仕草でも彼女がすればまるで少女のように可愛らしい。
 そしてあなたもよ、と王に対して付け加える。王は何処吹く風で、一足先にお茶請けのクッキーを摘んでいた。
「私とソフィーの二人だけでは味気なくてね」
 署名の終わった書類を、トントンと整えるクイーン。それを側にいた薔薇に手渡しながら。
「以前はね、よく一緒にお茶会をしていたものよ」
 溜息をついて、万年筆を動かす指が止まる。そうしてどこか寂しそうに窓外を眺めた。途切れてしまう言葉と表情。

「ソフィーナ」
「ああ、御免なさいね」
 私が首を傾げれば、一瞬前の表情が錯覚のように、やわらかく微笑む。
 あと少しで終わりだから、と、静かに顔を伏せられる。その横顔をぼんやりと見詰めた。
 もしかしたら、昔のことを思い出しているのかもしれない。何かは分からないけど―ーそう、例えば前のアリスの時代のこととか。
 そこには、過去を懐かしむ以外の感情も混じっている気がした。