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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 そして、土曜日。公園の【吟遊の木立】である。相変わらず、幾つものグループがあちらこちらで演奏している。八時くらいからポツリポツリと現れ始める演奏者。それに合わせるかのように、九時頃からそれ目当ての人達が集まり始める。高校生くらいのグループから社会人まで、演奏する方も見に来る方も年齢は様々だ。
「多いな、今日……」
 点在する人だかりを見ながら航が瞳を丸くする。
「連休だから、しばらくはこんな感じなんじゃね?」
 “不安”が航の顔を過(よ)ぎった。
「見に来ておいて、正解だったろ?」
 顔を覗きこんでくる慎太郎に航が頷く。
「とりあえず、回ろうぜ」
 歩き始めた慎太郎の後を航が慌てて追いかける。
「シンタロ! あの人、居てる!!」
 毎週土曜日は必ずいる、『アコギにブルースハープ』のソロ演奏者。航がすっかりファンである。さっきまで人ごみに躊躇していた筈なのに、慎太郎の腕を引っ張ってそっちに向かって歩き出す。
 どうやら彼も到着したばかりのようで、囲む人もまだ“輪”にはなっていない。二人は一番前に自分達の場所を確保した。
 二人の目の前で進んで行くチューニング。淡々としたその仕草が、とてつもなく格好良い……と二人して頷き合う。
 やがて、
「おはようございます。こんなに早くから……」
 にこやかに観客に声をかけ、一曲目の演奏が始まるのだった。
  ―――――――――――――――
 一時間弱の演奏時間はあっという間だった。取り立てて面白い事を言う訳ではなく、静かに、その曲に対する想いや経験を語りながらのライブは、朝一番に聴くにはもってこいだった。演奏者が最後の曲が終わり深々と頭を下げると同時に、航が身体を反転させた。後ろの人間から徐々に輪が解けていくのをジッと見詰める航。
「航……?」
 余りの固まり方に、慎太郎が心配そうにその顔を覗き込む。
「めっちゃ人居ったんやなぁ……」
 慎太郎に微笑み返す。“大丈夫やったで!”と……。
 ホッと胸を撫で下ろした慎太郎が“行くか?”と親指で奥を指し、航が頷いた、その時。
「いつもありがとう」
 静かな声が肩越しに振ってきた。思わず、二人揃って振り返る。
「毎回、来てくれてるよね?」
 優しい笑顔が二人を見ている。
 互いに自分を指差す二人に、ソロ演奏者が微笑みながら頷く。
「君達は、やらないの?」
 差し出すように自分のギターを持ち、首を傾げる演奏者に、
「今度の木曜からやるんです!」
 嬉しそうに航が返事を返した。
「アコギ?」
「はい。もっと色々やりたいんですけど……。そっちはボチボチ……」
 嬉しそうに話す航。
「場所は決まったの?」
「とりあえず、あの木立の向こう側の……」
 【木立】の端の方を指差し、慎太郎の顔を見る。
「あぁ……、あそこか……」
 頷いた顔が、少し笑った気がして、二人して顔を見合わせると、
「いや、初めての時、僕もあそこでやったんだよ」
 演奏者が恥かしそうに頭を掻いた。
「あそこってさ、初めての奴が大概選ぶんだよね。隅っこで、あんまり人目に付かなさそうだから」
「“付かなさそう”って……?」
 付かないだろうと踏んで、最初の場所として選んだ二人が又もや顔を見合わせる。
「ここの“お客さん達”は、ハンパないって事さ。みんな耳が肥えてるから、どんなに隅っこでやってても、上手ければあっという間に引き摺り出される」
「……引き摺り……」
 二人揃って苦笑い。
「あそこ、スペースが狭いだろ? だから、聴き手が増えてくると移動せざるを得なくなるんだよ。逆に、聴き手が付かないと惨めになるんだよね。あの場所……」
 “僕は引き摺り出された方だけど……”と決して天狗になる事無く、恥かしそうに笑う。
「午後からまたやるから、時間があるようなら……」
 そう言って、手作りの名刺を差し出した。
 ギターとブルースハープの絵の中に、音符に混じって『小田嶋 慎』と記されてある。
「仲良くなれそうな人にしか配ってないんだから、超レア物だよ」
 屈託の無い笑顔を二人に投げかける。
「“おだじま しん”?」
「“まこと”って読むんだ。ま、大概、“しん”って言われるけど」
 ふーん、と見入る慎太郎に、
「シンタロとおんなじ字♪」
 航が指差して笑った。
「“シンタロウ”って言うの? この字で?」
「はい」
 “親近感湧くなぁ”と慎太郎の手を握る。
「またおいで。次は二時くらいからやるから」
「はい、是非」
 手を振る小田嶋氏にペコリと頭を下げて、二人はその後姿を見送った。
「珍しいじゃん」
 後姿が見えなくなったところで、慎太郎が航に言った。人一倍人見知りの激しい航が、笑顔で返事を返すなんて、今まで一度もなかったからだ。
「……あの人な……」
 屈託の無い笑顔と良く通る声が、なんとなく“父”に似ていた……。見えなくなった姿を追う様に、航が遠くを見る。
「二時まで、他、見て回ろうぜ」
 言葉を飲み込んでしまった航に気付き、慎太郎がセッティングを始めたグループを指差した。
「うん」
 “あっち? こっち?”と目移りしながら、二人は【吟遊の木立】を巡るのだった。
  

 五月二日。
 今日はライブの前日である。
『……そうだね。初日はムリせず、六〜八曲くらいの方がいいんじゃないかな?』
 土曜日の午後からのライブの後、小田嶋氏に相談にのってもらった返事である。
『自分達のオリジナルが無いのであれば、歌いやすい曲、自信のある曲、誰もが知ってる曲……が妥当かな』
 小田嶋氏の言葉を念頭に、日曜と月曜も木立を回った。他の演奏者がどんな曲を使っているのか確かめる為だ。オリジナルの無い演奏者も結構多く、そうなると“歌いやすい曲・誰もが知っている曲”は限られて来る。出来れば曲の重複は避けたかった。
「AMIの“十七才”は絶対! として……」
 慎太郎の部屋で航が演奏予定だった十曲のリストを目の前に、ペンで頭を掻いている。
 何故“飯島宅”なのかというと、“堀越宅”では、祖父母があまりいい顔をしないからであった。ストリートライブのようなパフォーマンスは理解出来ない年齢らしい。
「明日なのに、今から組み直しなの?」
 飲み物を運んできた慎太郎母が慎太郎の机の上にそれを置きながら、心配そうに二人を覗き込んだ。
「組み直しって言うより、曲を減らすだけやから」
 顔を上げる事無く航が返事をし、
「頼りになる人がいて、その人からの助言なんだ」
 “俺、こっちの方が好き”とリストを指しながら慎太郎が続ける。
「……ほな、これと、これと……。これは?」
 航が出来そうな曲を丸で囲み、トンとひとつをペンで示した矢先、
「あ! それ、ダメよ!!」
 慎太郎母が首を振った。
「母さん!」「おばさん?」
 “口出しすんなよ!”と怒る慎太郎の向かい側で、航が首を傾げる。
「なんで、アカンの?」
「それねー、サビに入る寸前でシンちゃんトチるのよね。かなりの確立で!」
「そーなん?」
 航に問われ、
「……七割くらい、かな……」
 慎太郎が顔をしかめた。
「ほったら、これも除外、と」
 結局、十曲が七曲になり、慎太郎が内心ホッとする。
「この曲から始めて、これやって……これ?」