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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2

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 「腹減ったけど……眠い……」
 寝るか、食うか。どちらかを選べと言われて小娘は前者をとったのだ。だが……。
 再度。携帯が鳴った。
 一度だけベルが鳴り、そして切れた。
 「……なんだよ……またオカジーか。普段、あんまりメールなんてこねーのに」
 丸山花世は顔に制服の跡を残したまま呻いた。まさにデスマスク。ひどい顔のまま小娘は携帯を確認し……そこで僅かに目を細める。
 ――花世。
 それはアネキ分からの出頭命令。
 ――16CCから連絡あり。急遽会いたいとの由。十五時三十分。恵比寿駅で待つ。
 簡潔な指令文。小娘は体を起こした。
 「何だ……随分急だね。でも……」
 そういうことであれば、出座しなければなるまい。
 
 恵比寿。十五時二十分。
 JRの長いエスカレーターを下りきったその先。制服姿の丸山花世はぼんやりとしている。駅前に停まっているタクシーのボンネットの上を陽炎が揺れている。 
 「暑いな……」
 小娘は顔をしかめた。連日の打ち合わせ。
 打ち合わせが常態となっている女子高生は多分珍しい。
 「アネキの部屋にしばらく泊まりこみになっかもなー……」
 小娘はうなった。
 大森にある小娘の実家から、大井弘子のマンションはすぐ目と鼻の先。歩いて五分の距離。これまで仕事を一緒にしたことがないが、共同でシナリオをあげるとなれば、近くにいたほうが良い。
 ――学校はテキトーに切り上げて、アネキのいない間にアネキの部屋で作業をする。で、アネキがイツキから帰ってきたら、バトンタッチ……。
 ちなみに丸山花世にも親はいる。
 両親がいるからこそ子供ができる。ちなみに生意気な小娘を製造した製造元は、
 ――なんでこんな子ができたのか?
 といつも首をかしげているとかいないとか。
 製薬メーカーの営業をやっている父親に親戚の測量機器の製造会社で事務をやっている母親。娘が物書きになる要素はどこにもない。普通であれば。
 ――やはり大井さんのところのお嬢さんの影響か。
 本家の才媛に親しくさせていただいた結果がこれ。だとしたら何故、大井弘子の従順で人当たりのよい性格面での影響を妹は受けなかったのか。そのことが丸山夫妻には不思議でならないらしい。だが。娘は知っている。