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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・パラレル-月光姫譚-

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 銃を地面に下ろし立ち尽くしているベレッタの口から言葉が零れ落ちる。
「……悪魔」
「私のことも悪魔と呼ぶか……。確かに血の契約とともに君の光を半分いただいたが、その代わりに力を与えた。銃を望み創り出したのは君だ。銃は憎悪、怒り、敵意を示し、それとともに君は命の儚さを知っている」
 ベレッタに仮面を向けるファントム・ローズ。おそらく力とは銃のことを言っているのだろうとメイは察しが付いた。だが、この二人の関係はいったい?
「アタシひとりでこの世界に光を取り戻すって言ったでしょ!? あんたは邪魔しないでよ!」
「私は君に力を与え、見守った。しかし、朝はまだ来ない。人は己の力で道を切り開いて欲しいと願っている。けれど、私はお節介なものだから、口を出したくてしかたなくなる。その衝動は私にも押さえられないのだよ」
 ファントム・ローズは一呼吸置いて、メイを指差して再び口を開く。
「それと、君が現れたことにより、この世界は変われるかもしれない」
「僕……?」
 指を差されたメイはきょとんとした表情をした。今まで目の前で成されていた会話でさえ、置いていかれている感じがしていたのに、突然指を差されてよけいに戸惑いを覚えた。
 白い仮面が霧の奥に霞む塔を見つめた。
「私は知っていた――ベレッタだけでは光を取り戻せないことを。メイは鍵となって光の扉を開けられることだろう……しかし、それが幸せなことなのか私にはわからない。時は満ちた、約束の地には私が案内しよう」
 足音も立てない静かな足取りでファントム・ローズが歩き出した。その足は一歩一歩、湖へと近づいていく。そして、メイとベレッタは目を見開いた。ファントム・ローズが乗ったのだ。
 ファントム・ローズの足は水面に乗った。ファントム・ローズはそのまま少し水面を滑るように歩き後ろを振り向いた。
「私の通った道を歩くといい、そうすれば沈むことはない」
 陸から湖の上まで色艶やか紅い絨毯が敷かれていた。その絨毯はファンと・ローズの足元まで続いている。紅い絨毯の正体は薔薇の花びら。薔薇の花びらが水の上に艶やかに浮き、月光を浴びながら揺られていた。
 ベレッタはすぐにファントム・ローズのあとを駆け足で追って薔薇の絨毯の上に乗った。
 メイは少しおどおどしながらも、ゆっくりとつま先から薔薇の絨毯に乗った。その感触は木の葉の上を歩くのとさほど変わらず、一歩進むごとに下から薔薇の香りが上に抜ける。
 霧の中に浮かぶ巨大な影が揺ら揺らとゆらめき、その輪郭が徐々にはっきりとしてくる。
 沈んだ灰色の塔はどこか陰気で寂しく、霧に包まれていることによって見ているだけで憂鬱な気分になってくる。
 メイたちの前に巨大な鉄門が立ち塞がった。ここが塔の入り口らしく、門はともて頑丈そうで鍵がなければ中に入れそうもなかった。
 ベレッタが門を開けようとして、引いたり押したり、最後には突進してみたが、びくともしない。
 門を蹴飛ばして怒りをあらわにするベレッタの身体をファントム・ローズは優しく腕で退かした。
「君には開けられない。この門は固く閉ざされた心を暗示している。この門を開けられるものは限られているが、君はその正反対の人であり、君が無理やり開けようとすればするほど、門は固く閉ざされることだろう」
「アタシに開けられないってなんでよ、あんただったら開けられるの?」
「否だ。私にも開けられない――互いの想いが足りないからな。この夢幻世界で開けられる可能性があるのはただひとり、君だけだ」
 振り向かれた仮面が微笑んでいるようにメイには見えた。
 メイは静かに鉄門に近づいた。それだけなのに門が開いていく。メイが一歩進むごとに、門が少しずつ軋みながら開いていく。扉はまるで心を開いたように開き、塔はメイを自ら受け入れたのだ。
 開かれた門を見てメイははしゃぎ、急いで中に入ろうとした。
「開いたよ、早く中に入ろうよ!」
 さっさと中に入って行ったメイの背中を見て、ベレッタは言葉を漏らした。
「なんでメイには開けられるの?」
「君はその理由を知っているはずだ。思い出せないだけだ」
「思い出せないって――!?」
 すぐ横で声がしたと思ったのに、ファントム・ローズの影はすでに門の奥に潜む闇へと吸い込まれようとしていた。
 ベレッタは地面を蹴飛ばした。
 ファントム・ローズはいろいろなことを知っている。それなのに中途半端にしか語らない。それではお節介ではなく性質が悪いだけだ。メイはそれに腹を立てたが、ファントム・ローズに詳しく聞こうとしない自分がいて、ファントム・ローズを頼らないようにしようとしている自分いることにも気が付いていた。
 自分への怒りを認めようとしないため、怒りは全て憤りのない怒りへと変わる。
 ベレッタは幼い子供のように顔を膨らませて門の奥へ飛び込んだ。