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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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ケンの優しさ


 
「あこ、ちょっとおじいちゃんに遊んでもらってて」
「はあい」
 後かたづけがすむと、ぼくたちとさちこさんは犯人をつかまえる相談をした。
「別荘荒らしは自転車とかミニバイクとか盗んで移動してるみたいよ」
「昨日おれたちあのあとも聞き込みをしたんだけど、変な男を見かけたって言う人がずいぶんいたんだ」
 ノブとヤスはまるで刑事にでもなったような気分でいる。
「でも、変な男っていうだけじゃ、またさちこさんのことみたいになっちゃうよ」
 トシがいった。
「いやあね。そんなにわたし変だった?」
「で、そのへんな男ってのは?」
 ユウジが聞いた。
「ほら東京なんかにいるホームレスみたいな格好で、ゴミをあさってるんだって。でもそいつが空き家をのぞいてたっていうんだ」
 そのノブのことばに続けてヤスが言った。
「で、今まで何度も追いかけたんだけどそのたびに見失っちゃうって」
 すると、さちこさんが言った。
「それって、下の国道ぞいの別荘の入り口あたりじゃない? ミニバイクや自転車もそこで乗り捨ててあるって聞いたわ」
「あ、そうそう。そのへん」
「知能犯だな。あそこは道がいくつも分かれてて入り組んでる」
 ケンがくやしそうにいった。
「じゃああのへんを重点的に張り込もう」
と刑事のノリでヤスがいった。
「ちょっとまってて」
 突然さちこさんは何かを思いだしたように立ち上がると、車を走らせてどこかへいってしまった。かと思うとすぐにもどってきた。
「ごめんごめん。これよ、動態図」
「胴体……図? 解剖するの?」
「なにいってんだよ、トシ。動態図ってのは町中の家が載ってる地図だよ」
 ユウジが笑った。
「こんなところで役に立つとは思わなかったわ。帰ってきた日に買ったのよ。十二年ぶりに戻ってみたら結構かわってるんだもの」
 さちこさんは動態図をひろげて、国道沿いの別荘の入り口あたりが載っているページを探した。
 国道から別荘への入り口は二カ所、ホテルへの道が一カ所、海へ下っていく道が一カ所、そして建設が頓挫したリゾートマンションへの道が一カ所あった。
「よくまあここまで地形を変えたわね」
 さちこさんは驚きあきれている。
「わかったわ。ここ。ここをマークしよう」
 さちこさんが指さしたのはマンションの場所だった。
 そこは一戸建ての別荘地を分譲する前、バブル景気に乗ってリゾートマンションを造ろうとした場所だ。ところがバブルの崩壊でマンションの骨組みだけつくったまま放置され、今ではまるで何かの遺跡のようになっている。
「でも、さちこさん。なんども警察が調べてなにもなかったんですよ」
とケンが言った。
「この山の裏側よ。左は造成してあるけど、これを見る限りでは右側のここは造成してないでしょ」
 地図ではたしかに山になっていて、そばには川もある。
「気がつかないかなあ。ヒント。コウモリ」
「ええ!?」
 みんなは奇声をあげてますますわからないっていうふうだった。そのときふとぼくはあのコウモリのいる防空壕を思い出した。
「ぼ……」
 ぼくは言いかけてすぐに口をつぐんだ。ユウジの顔をみたらなんとなく言えなくなっていたんだ。ケンがそんなぼくのようすに気づいた。
「なんだ? ジュン」
「う、ううん。なんでもない」
 ぼくは首を横に振った。ケンはちょっとぼくの顔をみつめて、それからさちこさんに言った。
「もしかしたら防空壕?」
「そう。しっかりしてよ。少年探偵団。このへんはどこの山でもかならず横穴の防空壕があるでしょ。だいいち今でも使ってるじゃない。物置代わりに」
「えへへ、そうでした。おれんちでもリヤカー入れたりしてる」
と、ノブが言った。
「ここにいくつかあるのよ。だから、ケンちゃん。おじさんへの連絡お願いね。わたしはマッポはにがてなの」
 さちこさんのことばにちらっとヤンキーことばが見えた。
作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ