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しっぽ物語  1.シンデレラ

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「あんたみたいに何でも揃ってる男に、悩みなんかあるの」
「うるせえな」
天井をにらみつけたまま腕を振る。闇雲に振り回して当たった先にあった膝に手を当てると、よく発達した内股が胴を締め付けた。
「おまえには分かんねえよ」
「だろうね」


 見上げた乳房はロケットのような形をしていた。ぴんと尖ったままの乳首はオルガスムスの名残だということは分かったが、本当に絶頂の波が引いたのはいつだったか、実際のところFはわかっていなかった。女はややこしい。男は突っ込んで出して、それで終わり。けれど眼の前にいる女は、身体を離してシャワーを浴びた後もまだ蕩けたような顔で、いとおしげにFのことを見つめている。見つめ返し、ムードに参加してやる気にはなれなかった。もともと人と視線を合わせるのは嫌いだった。今も、安っぽい照明よりは遥かに輝く真上の瞳の色さえ知らない。しぶしぶ顔を上げる。途端期待で緩められた表情にげんなりした。灰色の濃い蒼。今日の空の色よりは明るい。日暮れまでのあと数時間、どちらを眺めているほうがマシかと聞かれたら、とりあえずはこちらを選ぶ。第三の選択肢があれば、迷わずそれに飛びつくほどの忍耐でしかなかったが。

「お金あるんじゃないの」
「よく知ってるな」
「服とか見たら分かるよ」
 見ず知らずの女に指摘されるのは不愉快だったが、仕方がない。彼女はもう既に、ドルチェ&ガッバーナのジャケットを興奮の余り皺くちゃにしていた。
幻滅はテーブルクロスに零したコーヒーのように丸く広がる。もう二度とこの女の顔を見つめないと誓う。だから、相手が何を見ているかも分からないままでいい。顔か、金か、ステイタスかセックスか。女が知っているのは最初と最後だけのはずなのに、見透かされているように思えて怖かった。
「使う場所なんか限られてるからな」
「嫌味」