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芋砂戦記

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その2人の偵察兵は、ある戦場の山の上で狙撃銃を構えていた。
戦場といっても現実の戦場ではなく、オンラインゲームの戦場なの
であるが…。ちなみにこの試合は、『日本軍』VS『アメリカ軍』!

   ダダーン!!!

 重なった2発の銃声が戦場に響き渡った。その銃声がやんだあと
、2人の偵察兵がいる山の近くを走っていた兵士が死んだ。しばら
くすると、1つのリュックサックになった。 このオンラインゲー
ムでは、死ぬとその兵士は、自分が持っていた装備がつまったリュ
ックサックに変身するのだ。もちろん、そのリュックサックを拾っ
て使うこともできる。ちなみに、このゲームに出血表現は無い。

 …どうやら、今死んだ兵士を殺したのは、山の上にいた偵察兵の
どちらかのようだ。2人とも日本軍のチームだった。2人はその場
で、ボイスチャットを使って会話を始めた。
「…よし! これで3人目!」
「先に撃ったのは俺のほうらしいな。『キルアシスト』って加点の
 表示が出てる。」
「こっちは、『ヘッドショット』って表示が出てる。」
「しかし、『芋砂』はやめられんなw」
「自分がやられたときはウザイと思うけどねw」
「『芋砂』をやってるおかげで、マイスコアのキル数が死亡数を上
 回れたよw」
「しかもこのゲームの場合、予備の弾数は無限だし、体力は自動回
 復だしねw」

 どうやら、この戦場で笑いながら会話しているのは、この2人の
『芋砂』だけのようだ。

 また一人、山の近くを兵士が走っていた。どうやら山の上に2人
も『芋砂』がいることには気づいてない様子だった。

 すると、この2人の偵察兵はボイスチャットでの会話をやめ、再
び狙撃銃を構えた。すぐに両方の狙撃銃のスコープの中に、走って
いる兵士が映りこんだ。そして、スコープの真ん中にある十字が、
兵士の頭に重なった。

 ダーン!!

 今度は一発の銃声が響き渡り、銃声がやんだ頃には、また一人の兵士が山の上にいる『芋砂』に殺された。

「…今度は俺だ。」
「くそぅ、撃つこともできなかった…。」
 片方の『芋砂』が喜び、もう片方の『芋砂』は悔しがった。

 2人はそんなことを何度か繰り返していた。

「…あれ? 同じチームにいるフレの人からメールが来たんだけど
 …。」
「なんて?」
「メールの題名は『芋砂やめてください。』で、本文は『今から戦
 車で敵の陣地に突撃しますので、援護をお願いします。』だって
 。」
「…今いいところなんだがなぁ。」
「彼女なら一人でやれると思うし、わざわざ行かなくてもいいだろ
 。」
「そうだな。」
 どうやら、PS3内のメールを送ってきたのは女のようだ。こういう
ゲームをやるのは、ほとんど男なのが現状である。
2人はその状態を続けた。

「…あっ! あの戦車じゃないか?」
 片方の偵察兵が近くの丘の斜面を登ってくる一台の日本軍のチハ
戦車を指さした。もう片方の偵察兵も戦車に気づいた。戦車が登っ
ている丘の上には、現在敵チームに占領されている拠点があり、戦
車はそこを味方チームの拠点に変えるつもりなのだ。このオンライ
ンゲームを勝利するには、戦場にある5つの拠点を半分以上占領す
るのが一番いい方法である。どうやら、あの丘の上の拠点を占領で
きればこっちが半分以上占領していることになるようだ。

 そして、戦車はちょうど拠点のど真ん中の旗の下に陣取った。敵
に拠点を取られまいと向こうチームの兵士たちが、こっちの戦車に
突撃してきた。だが、戦車に乗っているプレイヤーは相当の腕前で
敵兵をどんどん、戦車砲や標準装備の機関銃で殺していった。専門
用語で『戦車無双』という。

「さすが、させぼさん。やるねえ。」
「ああ、フレンドでいることを誇りに思うよ。」
 一方、例の2人の偵察兵はその現場を、山の上の同じ場所で眺め
ていた。

 しかし、その戦車がもう少しで占領できたところを、敵にTNTを
仕掛けられ、爆破されてしまった…。TNTはどんな兵器でも一撃
で破壊できる恐ろしい武器である。 その場にこっちの味方は他
に一人もいなかったようで、敵に拠点を元の状態に戻されてしま
った。
 戦車が爆破されたとき、2人の偵察兵は同時に「あっ」と言った
。そしてすぐに、
「…彼女からメールがきた…。 題名だけで『ふざけるな』って…
 。」
「…やばいな。」
「…あれ? 彼女がスコアボードのリストから消えてる…。」
「嫌になって、抜けちゃったのかな?」
「…まあいいや。このまま続けよう。」

 そのまま2人の偵察兵がは元の「作業」を始めたが、自分の点数
を見ようとスコアボードをのぞいた片方の偵察兵が、
「…あれ? いつの間にか彼女があっちのチームに入っているけど
 。」
「…どれどれ、ほんとだ…。」
「…なあ、あの飛行機、こっちに向かって来てないか?」
「…まさか…。」
プロペラ音とともに一機の飛行機が、2人のいる山に向かって来て
いた。そして、あっという間に呆然とする2人の『芋砂』に爆弾を
落とし、2人を爆弾で殺した…。

 2人の死体の消えたあとには、偵察兵の装備が詰まった2つのリ
ュックサックが残っているだけであった。

作品名:芋砂戦記 作家名:やまさん