小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ドール ノーカット差分

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

彼女の視線を追うと安奈にたどり着いた。
ピーター人形を大事そうに抱えている。
「そうみたいだな、あんなに気に入ってくれるなんて、プレゼントした甲斐があるってもんだぜ」
「くす、そうね」

杉村一家の姿は中央のアスレチックエリアにあった。
雄介夫妻はもみの木の下にレジャーシートを敷きそこでくつろいでいる。
一方賢治と安奈はアスレチックで遊んでいた。
網を上り切り安奈は上の足場に到達した。
そこから兄を見下ろす。
「お兄ちゃん早く……!」
「分かってるって……」
上り切る寸前まで来て賢治はふと妙な視線に気付いて顔を上げた。
その視線の先には自分を見下ろす妹。
いいやそれだけじゃない自分と同い年くらいの少年が彼を見下ろしている。
その表情からは何も読みとれない。
賢治はまだ幼いから気付かないがもっと年を重ねていたなら容易に気付くだろう。
無表情な少年に顔に浮かぶ唯一の感情に。
それは冷たい殺意。
とりあえず相手を殺してやろうという邪悪な感情。
「君は……誰……?」
「え……?何……?」
安奈が問いかけてくるがそれに答えている余裕はない。
少年はそれには答えずに足場にかけられた賢治の手に足を伸ばした。
そのままその小さな手を踏みつける。
「痛いよ、やめてよ」
その言葉に無表情だった少年の表情にかすかな変化が訪れた。
口元が緩み歪んだ笑みが顔中に広がった。
さらに足に力が込められた。
「やめてよ……!落ちちゃうよ……!」
賢治の叫び声に周りの視線が一斉に彼に集中する。
もちろん賢治の叫びは雄介達にも届いていた。
「今の賢治の声じゃないのか?」
「ええ、多分。何かあったのかしら」
雄介達はレジャーシートから身体を起こしアスレチックへと向かった。
「……死んじゃえ」
唐突に少年がその言葉を呟いた。
それと同時にもう片方の足が振り上げられそのまま賢治の顔に叩きつけられた。
その衝撃で賢治の手は網から離れ彼の身体は地面へと落下した。
「お兄ちゃん!」
悲痛な叫びを上げる安奈を尻目に彼女の腕に抱かれている人形は冷たい目で落ちて行く賢治を見つめていた。
それはあの少年の目そのものだった。

俺達は賢治を背負ってシートまで戻った。
それにしても一体何があったのだろう。
誰かに手を踏まれていた様だが賢治の手を踏んでいる人物はいなかった。
俺が気付かなかっただけだろうか。
その後賢治は突然落下した。
まるで何かに弾き飛ばされた様に。
「おい、賢治大丈夫か?」
意識を失っている賢治の身体を揺する。
息をしていて特に目立った外傷もないので少し安心した。
賢治が唸ってからゆっくりと目を開ける。
「ああ、賢治よかった」
美由紀が賢治を抱きしめる。
俺もホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても賢治お前いったどうしたんだ?急に地面に落ちて」
ふざけた感じで探りを入れてみる。
「……」
賢治はしばらく沈黙してから何かを思い出したのか口を開いた。
「男の子に落とされた」
その言葉を聞き俺と美由紀は顔を見合わせる。
やはり誰かに落とされたのだ。
しかし賢治が落ちた瞬間彼の目の前に男の子はいなかったはず。
それとも俺の見間違いか。
「一体誰がそんなことをしたの!?」
美由紀が怒鳴り声を上げた。
彼女は子供のこととなるといつもこうだ。
まさに母は強し……だな。
「名前は知らない……なんだか冷たい表情の子だった」
「安奈!誰が賢治を落としたの!?」
美由紀の剣幕に安奈は驚きしばらく言葉を発せなかったがようやく口を開いた。
「男の子なんていなかった……」
おずおずとした様子で言う。
「なら賢治は自分で落ちたって言うの?バカらしいそんなことあるわけないじゃない」
「でも本当だもん……」
遂に安奈は泣き出してしまう。
美由紀もやり過ぎたと思ったのか申し訳なさそうな表情だ。
「誰も悪くないよ」
俺はみんなを抱きしめる。
「美由紀も安奈ももちろん賢治だって。だから争うのはやめよう。な?」
「そうね……ごめんね安奈ママ、言い過ぎたわ」

その日の夜家の中はすっかり静まり返っていた。
そんな静寂の中美由紀の聞いた音が移動していた。
なんだかうるさいな……。
賢治はその音を聞かない様に頭から布団をかぶった。
今はとにかく眠りたい。
しかし音の主は彼が眠ることを許さなかった。
その音が賢治の方に移動してくる。
そして賢治の布団の前で止まる。
誰だろう……安奈かな。
今度はそれが誰なのか気になったので賢治は布団から頭を出して目を凝らした。
闇の中にうっすらと賢治を見下ろす人形の姿が浮かび上がる。
賢治を見下ろす冷たい目。
この冷たい目を彼は今日どこかで見た。
それはあの公園での出来事。
人形の目は彼を蹴り落とした少年とまったく同じ物だった。
まさかあの子はピーター?
そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間急に視界がまぶしくなった。
誰かがライターを明かり変わりにして立っている。
それは公園で賢治を蹴り落としたあの少年だった。
あの時と同じように冷たい殺意のこもった目で賢治を見つめている。
視線を移動させると右手に包丁が握られているのが分かった。
賢治は悲鳴を上げた。
それと同時に少年が包丁を振り上げる。
賢治は目を瞑った。
嫌だ……痛いのは嫌だ死ぬのは嫌だ……!
しかし刺された痛みはなかった。
「いったいどうしたの賢治……?」
目を開くと部屋の明かりが付けられていた。
美由紀が心配そうに明かりのスイッチの近くから賢治を見つめている。
「賢治どうしたの……?」
視線を落とすと床にライターと包丁、そしてピーター人形が落ちているが分かった。
ああ、やはりあれは夢ではなかったのだ。
「ママ……!この人形嫌だ……!」
賢治はピーター人形を掴むと思い切り放り投げた。
「ちょっとお兄ちゃん何するの、ピーターに乱暴しないで」
安奈が不機嫌そうな顔で咎める。
「うるさい!あの人形が僕を殺そうとしたんだ!」
「賢治とにかく落ち着いて、きっと悪い夢でも見たのよ」
美由紀が賢治を抱きしめ落ち着かせようとする。
「夢じゃないんだよ、信じてよママ……」

「ははっ、『チャイルド・プレイ』でも見たか?」
俺は茶化すように笑ったが美由紀はにこりともしなかった。
彼女の話によると賢治は昨日の夜突然ピーター人形に襲われると騒ぎだしたらしい。
「賢治いったいどうしちゃったのかしら」
美由紀が真面目な顔で訊いてくるので俺も真面目な顔にならざるを得ない。
「心配するなよ、ただ悪い夢を見ただけだって」
「本当にただの夢なのかしら?あなただって見たでしょうあの子の異様な怖がり様」
確かに賢治はピーター人形に対して異常なまでの恐怖心を示していた。
だから仕方なく嫌がる安奈を説得してピーター人形を賢治の目の届かない押し入れにしまったのだった。
「まあ確かにあれはちょっとおかしい気もするけど……」
賢治がそんな夢を見る心当たりがない。
「あ……」
ひょっとすると昨日公園でアスレチックから落ちたことが原因かもしれない……。
そのショックが恐怖として夢に現れたのか、それとも落下の際の衝撃でおかしな記憶が紛れ込んでしまったのか……。
考えれば考えるほど原因と思わしき物は増えて行く。
「どうしたの?」