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ドール

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美由紀の剣幕に安奈は驚きしばらく言葉を発せなかったがようやく口を開いた。
「男の子なんていなかった……」
おずおずとした様子で言う。
「なら賢治は自分で落ちたって言うの?バカらしいそんなことあるわけないじゃない」
「でも本当だもん……」
遂に安奈は泣き出してしまう。
美由紀もやり過ぎたと思ったのか申し訳なさそうな表情だ。
「誰も悪くないよ」
俺はみんなを抱きしめる。
「美由紀も安奈ももちろん賢治だって。だから争うのはやめよう。な?」
「そうね……ごめんね安奈ママ、言い過ぎたわ」

その日の夜家の中はすっかり静まり返っていた。
そんな静寂の中奇妙な音が移動していた。
なんだかうるさいな……。
賢治はその音を聞かない様に頭から布団をかぶった。
今はとにかく眠りたい。
しかし音の主は彼が眠ることを許さなかった。
その音が賢治の方に移動してくる。
そして賢治の布団の前で止まる。
誰だろう……安奈かな。
今度はそれが誰なのか気になったので賢治は布団から頭を出して目を凝らした。
闇の中にうっすらと賢治を見下ろす人形の姿が浮かび上がる。
賢治を見下ろす冷たい目。
この冷たい目を彼は今日どこかで見た。
それはあの公園での出来事。
人形の目は彼を蹴り落とした少年とまったく同じ物だった。
まさかあの子はピーター?
そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間急に視界がまぶしくなった。
誰かがライターを明かり変わりにして立っている。
それは公園で賢治を蹴り落としたあの少年だった。
あの時と同じように冷たい殺意のこもった目で賢治を見つめている。
視線を移動させると右手に包丁が握られているのが分かった。
賢治は悲鳴を上げた。
それと同時に少年が包丁を振り上げる。
賢治は目を瞑った。
嫌だ……痛いのは嫌だ死ぬのは嫌だ……!
しかし刺された痛みはなかった。
「いったいどうしたの賢治……?」
目を開くと部屋の明かりが付けられていた。
美由紀が心配そうに明かりのスイッチの近くから賢治を見つめている。
「賢治どうしたの……?」
視線を落とすと床にライターと包丁、そしてピーター人形が落ちているが分かった。
ああ、やはりあれは夢ではなかったのだ。
「ママ……!この人形嫌だ……!」
賢治はピーター人形を掴むと思い切り放り投げた。
「ちょっとお兄ちゃん何するの、ピーターに乱暴しないで」
安奈が不機嫌そうな顔で咎める。
「うるさい!あの人形が僕を殺そうとしたんだ!」
「賢治とにかく落ち着いて、きっと悪い夢でも見たのよ」
美由紀が賢治を抱きしめ落ち着かせようとする。
「夢じゃないんだよ、信じてよママ……」

翌日雄介は会社へ安奈は友達の家へ遊びに行き家には賢治と美由紀の二人が残っていた。
美由紀はリビングで二人分の昼食を作っている。
鼻歌を歌いながら食器棚から二つ皿を取り出す。
フライパンで炒めていたベーコンを皿に乗せたその時二階から賢治の助けを求める声が聞こえてきた。
「賢治!」
美由紀はあわてて二階へと向かった。

賢治の目の前で押し入れが独りでに開いた。
闇の奥から冷酷な瞳が覗く。
「ひっ……」
賢治は思わず尻もちをついてしまう。
そんな賢治を嘲笑いながらあの少年が押し入れの中から姿を現す。
「やあ賢治君」
少年が不気味な微笑を浮かべながら近づいてくる。
その手には包丁が握られている。
その刃がギラリと光る。
「君は……誰?」
恐る恐る賢治は尋ねる。
その少年の正体を。
「僕が誰かなんて君が知る必要はない」
少年が強い口調で言った。
「君はただ死ねばいいんだよ」
少年は歪んだ笑みを浮かべながらじりじりと歩み寄る。
「どうして……どうして君は僕にひどいことばかりするの?」
尻もちをついたまま後ずさりながら賢治は疑問を口にする。
なぜ自分が狙われるのか。
「なら逆に訊くよ、人が死ぬのにいちいち理由がいるかい?」
「え……?」
「人が死ぬのに理由なんかいらないんだよ。ただ運命が気まぐれに生贄を選ぶ、だから僕は君を選んだそれだけのことだ」
早く逃げなければ……。
賢治の視線が廊下に向かう。
賢治は弾かれた様に立ち上がると廊下目がけてかけ出した。
少年はそんな彼を嘲笑う。
賢治の目の前でドアが独りでに閉じた。
何度引いても開かない。
「ママ!ママ!助けて!」
何度もドアを叩く。
背後に邪悪な気配を感じ賢治は振り返った。
少年が今にも包丁を振り下ろそうとしていた。

美由紀が部屋に入ると賢治が血を流して倒れていた。
あわてて駆け寄る。
「賢治!しっかりして!」
呼びかけるが返事はない。
それもそうだ。
賢治は首や腹を何度も刺されそこから大量の血液が体外に流れ出しているのだから。
早く止血しないと……。
美由紀は一階に救急キットがあるのを思い出し一階へと向かった。
階段を下りた直後足に鋭い痛みを感じた。
それがなんの痛みなのか理解する間もなくバランスを崩し転倒した。
一体何で……?
痛みを感じた方向に目を向け美由紀は戦慄した。
ピーター人形が血で濡れた包丁を持って立っていた。
まさかあの人形が……?
すぐにその答えは出た。
ピーター人形が人形特有のかくかくとした動きで美由紀に迫ってくる。
美由紀は悲鳴を上げた。
ピーター人形がゆっくりと包丁を振り上げた。

一体どういうことだ!?
俺は中央病院に向けて車を走らせている。
普段通りに会社で仕事をしている俺の元に病院の関係者から電話が掛って来た。
家から聞こえる悲鳴の様な物に異変を察した近所の住民が通報し警察が駆けつけ、ドアをこじ開けて中に入ると美由紀と賢治が何者かに襲われ血まみれになって倒れていたという。
そして俺は弾かれた様に会社を飛び出し現在に至る。
訳が分からない。
何で俺の大切な家族が襲われなくちゃならない。
俺たちが恨みを買う様な事でもしたか……!?
そんな記憶はまったくない。
なら無差別殺人か?それとも強盗?畜生どれもろくでもない。
中央病院にたどり着くと車を乱暴に駐車場に止め病院に飛び込む。
受付を見つけると俺は並んでいる人々を押しのけて看護婦に問いただす。
周りの人々が非難の視線を投げかけるが知ったことか。
「ここに搬送されたという杉村美由紀と杉村賢治の家族だ!」
「申し訳ございませんがきちんと並んでもらわないと……」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないんだよ!あの二人はどこだ!?」
俺の怒鳴り声に圧倒され看護婦は渋々といった様子で答える。
「現在手術中です」
「どこで?」
いつの間にか周りには野次馬が出来ている。
その中には病院のスタッフらしき者達もいる。
俺を止めようにもどうすればいいのか分からないのだろう。
「第三手術室です……」
この病院の構造はある程度覚えている。
俺は階段目指して走る。
エレベーターなんか使ってられない。
俺は階段にたどり着くと一気に二階まで駆け上がった。
そしてB棟に続く通路を駆ける。
あっという間に三つの手術室が姿を現した。
一番奥が第三手術室だ。
その時医者らしき男が手術室から出てきた。
俺は医者に掴みかかる。
「二人は?」
医者はすぐに俺が二人の家族だということに気付き申し訳なさそうな口調で答えた。
作品名:ドール 作家名:逢坂愛発