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ドール

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仕事が終わり俺は電車に揺られていた。
この混み具合まさに地獄だ。
しかしある地点まで行くとそこで大分人が降りるので運がよければ座ることが出来るようになる。
俺は空いたばかりの座席に座った。
丁度足に当たる部分がストーブになっているためとても温かい。
アナウンスが目的地に到着したことを知らせたので俺は座席から立ち上がり電車を降りた。
人が多くて熱いほどだった車内から一変、鋭い冷風が顔に噴きつける。
マフラーを巻きな直し歩を進める。
商店街を通り抜けるのが近道なので俺は商店街に足を踏み入れる。
祭りでもやっているのだろうか、かなりの人数で賑わっている。
ああ、そうかフリーマーケットがやってるんだっけ。
それを思い出した俺は子供たちのためにお土産を買って行ってやろうと思いしばらく店を見ることにした。
しかし売っているものはほとんどが生活用品でめぼしい物は見当たらなかった。
「やっぱロクなもんが売ってねぇな……」
諦めて帰路に戻ろうとする俺を誰かが呼びとめた。
俺を呼び止めた人物を探そうと辺りを見回す。
「こっちじゃよこっち」
声のした方向を向くと老人が小さな店を構えていた。
老人が座るシートの上には品物と思われるおもちゃがたくさん置かれていた。
しかしどれも子供たちの趣味には合わない。
「お兄さん子供の土産でも探してるのかい?」
「ええ、そうですけど」
ズバリ言い当てられた俺は若干驚きながら答えた。
「お坊ちゃんかい?お嬢ちゃんかい?」
「どっちもです」
俺の言葉を聞くと老人は嬉しそうに笑った。
「そうかい、それはちょうどいい」
そう言うと老人はガサゴソと鞄を漁り中からかわいらしい男の子の人形を取り出した。
人形は娘の安奈が好きなので丁度良かった。
「ずっと孫が大事にしていた人形でのう、売らない様にしておったんじゃがワシが持っておっても仕方ないじゃろ?だからお前さんに譲るよ」
そう言って俺に人形を渡す。
子供らしいかわいらしい服を着た男の子だった。
多少汚れていたがそれも前の持ち主が可愛がった証拠だろう。
「ピーターと言う名前でのう」
「ピーターですか。いい名前じゃないですか」
これはお世辞ではない、だって実際ピーターという名前はかわいらしいではないか。
「そう言ってもらえるとうれしいよ。なんてったって孫が付けた名前だからね」

玄関のドアを開けて中に入ると子供たちが迎えに出てきてくれた。
「「パパお帰り!」」
二人揃ってそう言う様子が実にかわいらしい。
「ただいま」
二人同時に抱きしめる。
「あなたおかえりなさい」
遅れて妻の美由紀も出てくる。
夕食を作っていたのかエプロン姿だ。
「ただいま」
妻に笑顔を返す。
「実は今日、安奈にお土産があるんだ」
俺のその言葉に娘の安奈が目を輝かせた。
一方名前を呼ばれなかった息子の賢治は不満気に俺を睨みつけてくる。
「ほんとう!見せて見せて!」
「少し落ち着きなさい」
安奈の愛らしい反応に笑みをこぼしながら俺はバッグからピーター人形を取り出す。
「わーお人形さんだ!」
安奈が俺の手から人形をひったくる。
「パパ、僕には?」
声の方向を見ると賢治が不満気な表情をして立っていた。
ああ、かわいそうなことをしてしまったなという後悔の念が押し寄せてきた。
「ごめんな賢治、お前の好きそうな物はなかったんだよ。だけどその代わり今度好きな物を一個買ってやる」
その言葉を聞いて賢治の顔も輝く。
「本当……!?じゃあスーパーブラスター買って……!」
ヒーロー物のおもちゃをほしがるあたりが男の子っぽくて可愛い。
「ああ、良いよ」
「約束だよ……?」
「ああ、約束だ」
俺と賢治は指を絡めて指きりゲンマンをする。
「あなた、夕食出来てるわよ」
「ああ、分かった。さあお前達ご飯にしよう」
俺はジャレ付く子供たちを抱え上げリビングに向かった。

雄介がしばらく休みを取れたので杉村一家は久しぶりに大きな公園に来ていた。
杉村一家の姿は中央のアスレチックエリアにあった。
雄介夫妻はもみの木の下にレジャーシートを敷きそこでくつろいでいる。
一方賢治と安奈はアスレチックで遊んでいた。
網を上り切り安奈は上の足場に到達した。
そこから兄を見下ろす。
「お兄ちゃん早く……!」
「分かってるって……」
上り切る寸前まで来て賢治はふと妙な視線に気付いて顔を上げた。
その視線の先には自分を見下ろす妹。
いいやそれだけじゃない自分と同い年くらいの少年が彼を見下ろしている。
その表情からは何も読みとれない。
賢治はまだ幼いから気付かないがもっと年を重ねていたなら容易に気付くだろう。
無表情な少年に顔に浮かぶ唯一の感情に。
それは冷たい殺意。
とりあえず相手を殺してやろうという邪悪な感情。
「君は……誰……?」
「え……?何……?」
安奈が問いかけてくるがそれに答えている余裕はない。
少年はそれには答えずに足場にかけられた賢治の手に足を伸ばした。
そのままその小さな手を踏みつける。
「痛いよ、やめてよ」
その言葉に無表情だった少年の表情にかすかな変化が訪れた。
口元が緩み歪んだ笑みが顔中に広がった。
さらに足に力が込められた。
「やめてよ……!落ちちゃうよ……!」
賢治の叫び声に周りの視線が一斉に彼に集中する。
もちろん賢治の叫びは雄介達にも届いていた。
「今の賢治の声じゃないのか?」
「ええ、多分。何かあったのかしら」
雄介達はレジャーシートから身体を起こしアスレチックへと向かった。
「……死んじゃえ」
唐突に少年がその言葉を呟いた。
それと同時にもう片方の足が振り上げられそのまま賢治の顔に叩きつけられた。
その衝撃で賢治の手は網から離れ彼の身体は地面へと落下した。
「お兄ちゃん!」
悲痛な叫びを上げる安奈を尻目に彼女の腕に抱かれている人形は冷たい目で落ちて行く賢治を見つめていた。
それはあの少年の目そのものだった。

俺達は賢治を背負ってシートまで戻った。
それにしても一体何があったのだろう。
誰かに手を踏まれていた様だが賢治の手を踏んでいる人物はいなかった。
俺が気付かなかっただけだろうか。
その後賢治は突然落下した。
まるで何かに弾き飛ばされた様に。
「おい、賢治大丈夫か?」
意識を失っている賢治の身体を揺する。
息をしていて特に目立った外傷もないので少し安心した。
賢治が唸ってからゆっくりと目を開ける。
「ああ、賢治よかった」
美由紀が賢治を抱きしめる。
俺もホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても賢治お前いったどうしたんだ?急に地面に落ちて」
ふざけた感じで探りを入れてみる。
「……」
賢治はしばらく沈黙してから何かを思い出したのか口を開いた。
「男の子に落とされた」
その言葉を聞き俺と美由紀は顔を見合わせる。
やはり誰かに落とされたのだ。
しかし賢治が落ちた瞬間彼の目の前に男の子はいなかったはず。
それとも俺の見間違いか。
「一体誰がそんなことをしたの!?」
美由紀が怒鳴り声を上げた。
彼女は子供のこととなるといつもこうだ。
まさに母は強し……だな。
「名前は知らない……なんだか冷たい表情の子だった」
「安奈!誰が賢治を落としたの!?」
作品名:ドール 作家名:逢坂愛発