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陰陽戦記TAKERU 後編

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第十話 本当の想い(前編)


 俺は状況が分からなかった。
 何で美和さんと学が倒れてるんだ?
 そして加奈葉の両手が真っ赤に染まってるんだ?
「か、加奈葉…… 一体何がどうなって?」
 俺は加奈葉を見る、
 だが加奈葉の目に光が無かった。
「た、武……」
 すると学が俺に向かって顔を上げた。
「……逃げろ、加奈葉ちゃんは……」
 学が俺に向かって手を伸ばす、
 すると加奈葉が動くと学の背中を踏みしめた。
「があっ!」
「学ッ! ……加奈葉! お前何やってんだ?」
「うるさい奴だな」
「なっ?」
 すると加奈葉は俺達を見ると口を半月型に開いた。
「この時を待っていた!」
 加奈葉は大きく腕を振るうと夜空に向かって高笑いをした。
 明らかにいつもの加奈葉じゃなかった。いや、こいつは加奈葉じゃ無い!
「テメェ! 一体何者だ? 一体何しやがった?」
 俺が尋ねるとそいつは言った。
「ククク…… 我を倒したと思ったら大違いだ。こうして理想の体を手に入れる事が出来たのだからな!」
 すると加奈葉の全身からどす黒い陰の気があふれ出た。
 しかもついさっき戦って勝ったばかり魔獣の気だった。
「饕餮?」
「そんな! 倒したはずなのに!」
「まさか!」
 俺は凄い勘違いをしていた。
 今までどうしてこんな事に気が付かなかったんだろうと後悔した。
 さっき倒した鬼は饕餮の複製だった。
 今までこいつは他の魔獣に似せた鬼を作り出していた。
 考えてみれば自分自身と同じ鬼を作り出したとしても何も不思議じゃ無い!
「全ては計算どおり、貴様達と戦わせた鬼に今までに集めた陰の気の殆ど使ってしまったが…… この娘を手に入れてわが祈願が成就する!」
「加奈葉をどうするつもりだ?」
 すると饕餮は言って来た。
「知れた事、今度こそこの世を暗き闇に染め上げるのだ。そして暗黒を復活させる!」
「復活? どう言う意味だ?」
「ククク……」
 饕餮はもったいぶるように笑う、
「貴様達は暗黒を倒したつもりだろうがそれは大きな間違いだ。暗黒はまだ生きている」
「何だって?」
 俺達は本気で驚いた。暗黒天帝が死んでない?
「確かに暗黒は一度貴様達に倒され消滅した。だが万が一の事を考えてこの娘に自身の一部を寄生させておいたのだ。最も心に深い闇を持つこの娘にな!」
「心に…… 深い闇?」
 まさか、加奈葉に闇があるなんて……
「信じられないと言う顔だな、貴様は人間のくせに人間の事を何も分かっていないな……」
「んだと?」
 加奈葉は俺とガキの頃からの付き合いだ。知らない事は無いと言っても良い!
 そりゃスリーサイズまでは例外だが……
「この娘は今この男と恋仲だが、こいつには他に好いている、誰だと思う? それは貴様だ」
「オ、俺ぇ?」
 そんなバカな!
 こいつは二言目には俺の事を『バカ』だの『アホ』だの言ってくる奴だ。
 そりゃ腐れ縁だから話す事はあったり、美和さんと知り合ってからは協力したり一緒にいる事はあっても決して仲が良い方って訳じゃ無いはずだ。
「……貴様はどこまで鈍いのだ? この娘は貴様がその娘を好いているのを知り諦めただけに過ぎん、だが心の中にあった妬みの心は消えずに日に日に成長し、やがては暗黒を覚醒させるまでに至ったのだ」
「……俺の、責だって言うのか?」
「他に誰がいる?」
 俺は何も言えなくなった。
 確かに俺は単に付き合いの長さだけで勝手に判断していたのかもしれない、
 どちらかと言うと口うるさい妹としか見てなかった。
「だからってなぁ……」
 俺は鬼斬り丸の切っ先を向ける、
「俺は加奈葉を渡すつもりは無い! そしてお前を倒す!」
「フン、貴様自分のした事に罪の意識が無いのか? この娘に闇を与えたのは貴様なのだぞ?」
「ああ、知ってるよ…… だから俺は責任を取る!」
 俺は暗黒天帝に唆されていた時の学の事を頭に思い浮かべた。
 あの時は頭に血が上って敵の罠に嵌まり返り討ちにあった事を……
 あれから俺は学んだ。
 テメェの責任で何か起こったなら戦えばいい、テメェの償いが出来るのはテメェだけだと、だから俺は戦うだけだ!
「覚悟しやがれ、生きてんなら倒すだけだ!」
 鬼斬り丸に金色の光が灯る、だが饕餮(加奈葉)が鼻で笑った。
「できるのか? 貴様に?」
「んだと…… なっ?」
 突然鬼斬り丸の刀身から光が弱くなっていった。どうなってんだ?
「お、おい麒麟?」
『すまない武! 陽の気が足りなくなってきた!』
「何だって?」
 俺の左右では聖獣の宝玉を武器化しようとしているがそれが出来なかった。
「私もできない!」
「僕もです!」
「まさかテメェ?」
 俺は奴を見た。饕餮はしてやったりって感じの顔をしていた。
 野郎はこれを狙っていた。
 全て二重三重に仕組まれた事だったんだ。
 加奈葉を手に入れて邪魔な俺達を始末する為に偽者を作り出して戦わせて力を消費した所で一気に叩く、だから商店街なんて近い場所を戦いの場に選びやがったんだ。
「今ならば邪魔なお前達も消せそうだな、邪魔もいない事だしな!」
 加奈葉が白い手を振り上げると陰の気が集中して人間を3人分繋いだような巨大な刀身を形作った。
 不味い、今のこいつと戦って勝ち目が無い、だけど美和さんと学は怪我をしてる、このまま俺達が逃げれば2人が何をされるか分からない、
 しかも暗黒天帝の復活がかかってるならなお更だ。
(何とかしないと……)
 だがこんな絶対最悪の状態を打破する策など考え付くはずが無い、
「死ねぇっ!」
「くっ…… こうなったら!」
 俺は残り少ない力を振り絞って一点集中、攻めて軌道だけでも変えようと思った。だが……
「そこまでだ!」
 するとその時だ。
 突然空から青い一閃が放たれると饕餮の足元で爆発した。
「ぐっ? 何だ?」
 饕餮は辺りを見回す、すると俺の家の屋根の上に1つの人影を発見した。
 だが俺達は見ないでも分かる、今の攻撃の主は間違いない!
「何とか間に合ったな」
「桐生さん!」
 桐生さんは青龍のライフルを肩にかける、
 実は俺は美和さんの記憶が奪われた事を桐生さんに話していた。
 それで無理を言ってもらって来てもらったのだった。
 桐生さんは両足を揃えて大ジャンプ、饕餮の後を取ると銃口を向けた。
「ホールドアップ…… いや、横文字は分からないだろうから手を上げろで良いな?」
「……愚かな、それで勝ったつもりなのか?」
「ああ、俺が引き金を引けば、加奈葉さんを傷つけずに助けられるからな!」
 そうだ。青龍の力は形の無い物を攻撃する事ができる、
 本来連中に実体があるかどうか分からないが、加奈葉に取り付いている以上は奴は確実に実体が無い、となれば青龍の力は友好だ。
 だが奴の余裕で嘲笑った。
「フン!」
 饕餮が目を見開くと足元から陰の気が破裂した水道管の水の様に噴き出して自分の周りを包み込んだ。
「しまったっ!」
 桐生さんが慌てて引き金を引くと青い光の弾を連射、たちまち陰の気は消滅したが饕餮の姿は無かった。
「どこだ?」
 俺達は奴を探す、すると香穂ちゃんが指をさした。
「あそこっ!」
 満月を背に饕餮は宙に浮かんでいた。
「詰めが甘かったな! 我を他の魔獣と同じにするな!」