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お題・影


影が安売りしていた。
私は少し悩んだ。
ー…駅前のスーパーのがもう少し安いかもしれない。


ここのスーパーは駅前のスーパーよりは少しさびれていたが、何より家から近いので重宝している。
それに毎週金曜日には夕方にタイムセールスがある。行かなければ何がどのくらい安いのかわからないという少しせこいセールなのだが、主婦的にはやはり気になってしまうのだ。
そして今回は影が2割引きだった。

ー…まだストックはあるのよねぇ…

私は頭の中で家にある影の数を反芻する。
私と夫だけなら十分に足りる量だ。
だけどうちには年頃の娘がいる。

ー…本当にもう、どうして最近の若いこはこんなに影を濃くしたがるのかしら?

最近の娘は日増しに影が濃くなってきた。
影が薄くなるのを極端に怖がっているみたいだ。
それとも単に、たんなる流行りなのかもしれない。

私は自分の足元の影を見た。少し薄すぎる気がした。それでも、人には人相応の影の濃さがあるものなのだ。

…と、自分を少し元気づけ、私は2割引きの影をカゴにいれた。

作品名:ssコミュ 作家名:川口暁