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コミュニティ・短編家

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お題・謝罪×後悔×夜の街


シャザイセヨ
シャザイセヨ
シャザイセヨ
シャザイセヨ

コロセ
コロセ
コロセ
コロセ


三匹の大きな豚達が迫ってきたのは、確か東京のはしっこの方の夜の街だった。僕は咽び泣きながら許しを乞うた。
恐怖のあまり、ガチガチと歯の音がはっきり聞こえる程震えあがっていたのを覚えている。
無理もない。僕はあの時まだほんの少年だったのだ。
僕は出来る限り同情を誘うような、悲壮な声で哀願した。
ただ"うっかり"彼等にぶつかってしまっただけだったのである。
色々なことにむしゃくしゃしていたのは確かだったが。

けれど僕の必死の謝罪への豚達の答えは鼻で笑うことだった。

それでも僕は諦めなかった。
まだそんなところで死ぬわけにはいかなかったのだ。

「おねがいします。おねがいします。ぼくをみすてないでください。なんでもします。おねがいです。」

豚達はせせら笑った。

オネガイデス
オネガイデス
ナンデモシマス?

バカナ
バカナ
バカナヤツダ

オマエガ
オマエガ
オマエガデキルコトデ

ワレワレガ
ワレワレガデキヌコトナド
ナイ


それを聞いた僕は一層泣き崩れた。
どうすれば、どうすればいいのだろうと考えた。
だってその時そこには僕しかいなかったのだ。
この最悪の事態をどうにか出来るのは僕しかいなかったのだ。

「おねがい。せめてころさないで。ぼくしかぼくしかしらないんだ。ぼくしかできないんだ。ぼくはなんでもわかる。どんなことばでもはなせる。」

バカナ
バカナ
ソンナ
ソンナハナシ
シンジルワケガナイ

「ほんとうだ!じっさいぼくはきみたちのことばがわかってるじゃないか。ぼくはありとあらゆることばがわかるんだ。なにもかもだ。」

ソレナラバ
ソレガホントウナラバ

オマエハ
オマエハイカシテオイテヤル


「ほんとに…?」

ダガ
アトハ
アトハ
アトハ
シラナイ


その時僕はハッと溜め息をついた。
僕以外の人間は全て助からないと知ったショックのせいではない。
むしろその逆だった。
僕には愛すべき人間というものがいなかったのである。
家族は皆僕の生まれついての能力を恐れ僕を蔑んできた。
友人もいない。
もちろん恋人をつくるにも幼すぎた。
よって僕はこの世界に何の未練も無かったのだ。

あからさまに安心仕切った顔の僕を見て豚達はとても不思議そうな顔をしていた。

とにもかくにも、そのようにして我等が地球は滅びたのである。
何処かの星の何かもわからない豚の顔そっくりな生物たちによって。
そしてそれを地球人代表として許可したのは、一人のちっぽけな少年だったのだ。
誰にも愛されず、誰も愛さず生まれ育った僕という代表者。
そんな僕も、今ではもう地球のことをぼんやりとしか思い出せない。
本当にそんな星が存在したのだろうか?何処に行っても結局孤独だった、僕の妄想が生み出した架空の世界ではなかったのか?
僕は時折そんなことを考える。
故郷を見捨てる決断は、もしかして早すぎたのではないだろうか、とか。


けれど、結局のところ僕は何一つ後悔していないのだ。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁