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やるせないような気がした春。

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向かい風だ。
立って漕ごうとすると風に邪魔をされ、座って漕ごうとすると風に邪魔され。そして雨に邪魔をされ。
もう知らない。この体がどうなってもいいから今は雪香の所に行こう。
雨の中、泣いている。そんな女性をほっとける訳がない。まして僕たちは・・・・・・。
そう思って自転車漕ぎ始めて20分。
風が強かったので予想より遅くなった。
僕は自転車を歩道脇に止めて、交差点へと向かう。
雨に打たれながら、薄暗い闇の中を目を細めて雪香の姿を探す。
対角線上にある歩道の隅で店のシャッターにもたれている女性がいた。
間違いなく雪香だった。
赤信号だったが僕は車が来ないのを確認してから雪香のいる方へと走る。
そして車に数回轢かれそうになりながら雪香の所にたどりつく。
雪香は濡れた短い髪の毛でこちらを見た。
その目元は涙で赤くはれていた。
「・・・・・・ごめん」
「なんで・・・・・・。なんでだよ」
僕は雪香の謝罪を無視して、雪香の意思を訊いた。
今は謝罪が大事じゃない。なんでこうしているかだ。
「・・・・・・急に、恋しくなって。名塚さんが。静が・・・・・・」
静というのは、名塚さんの下の名前だ。
ということはまだ引きずってるのか。
しかしそれも仕方ない。一年以上連れ添ったパートナーから一方的に突き放されたんだ。
「だけどもう関係は・・・・・・」
僕は雪香に問いかけるように言う。
「そうだけど・・・・・・私は一方的に突き放されただけなの・・・・・・。よく考えてみると私って彼女の何だったんだろうって。ほんとやるせないよ」
本当に薄い笑みを浮かべながら彼女は泣いた。
無理に作った笑みを見た僕の胸はなぜかツンとなった。
「名塚さんは雪香にとって大切な存在だったと思う」
「違う」
「なんで」
「・・・・・・さっき言ったじゃん」
「最後は突き放されても、それまでは大切にされてたんだろ」
「結果的には突き放されちゃったし」
「それまでだよ。恋愛の終わりなんてどっちかは、突き放されるもんだろ」
「大切にしてくれてた・・・・・・かもね」
「ならそれでいいじゃないか」
「でも私の大事な人ってもう遠い所でさ・・・・・・。結ばれないってのは分かってる、だけど一緒にいたいだけなのに」
「あのさ」
「・・・・・・何」
「その、一緒にいたいっていうのだけど『友達』の俺と一緒じゃダメなんかな?」
僕は思っていた事を素直に口に出す。
雪香とは友達だ。だから一緒にいたいと思うのはごく自然なことだ。
「一緒にいてくれるの?」
「昨日約束したじゃん」
「・・・・・・そうだった」
「じゃあこれからは一緒だ」
「そうか・・・・・・ありがとう」
そして雪香は頬を赤くして、再び口を開く。
「それでさ・・・・・・そのー、『一緒にいてくれる』って言葉は告白なの?」
雪香はニヤついた顔で僕に訊いてきた。
・・・・・・そんなつもりはなかったんだけど。でも雪香ってレズビアンなんだろ? 
でも顔をよく見てみると、可愛いんじゃないのか? ショートヘアーもよく似合ってる。って、そんな事を考えてる場合なのか。
「え・・・・・・いや。な? だから・・・・・・」
急な問いかけに僕は言葉を詰まらせた。
すると雪香はクスっと笑って僕の唇に指を乗せる。
「いいよ、答えはまた聞くから。寒いし『家』に帰ろ」
壁って解消できたのか。
ていうか雪香ってこんなにかわいかったか。
そしてレズビアンに誘われてるような気がする僕、これどういうことだ。