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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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屋上への階段を一段ずつ踏みしめるように上る。
精神的に気が重いと、体まで重く感じて足があがりにくい。

屋上へのドアを開ける。
晩秋の屋上はまだ明るいとはいえ結構な寒さ。
呼び出した本人はフェンスにもたれかかっていた。
「池野」
呼びかける。
「お、岡本君っ!!」
明らかに焦った様子で名前を呼ばれた。
「何か、用だったんじゃないか?」
できるだけ優しく話しかける。女の子には優しく、と母親から言い聞かせられて育ってきたから。
「あ、あの、ねっ・・・」
途切れ途切れに話すけれど言葉が続かなくて俯いてしまった。
「大丈夫・・・か?」
一歩、池野に近づく。
「ごめん、大丈夫だからっ!!」
そういわれて、足を止めた。
「急に呼び出したりしてごめんね」
「いや」
「・・・」
それっきり会話が止まる。
自分から何か話しかけるだけの気遣いなんて到底無理。
そもそも用があるのは向こうのはず。

ガチャ、と後ろでドアが開く音がした。

振り返ると、飯田の姿。
池野といつも一緒にいる女子。
池野とは正反対で気が強いという印象が強い。

「千香ちゃん・・・」
池野がそう呟く。
「ゴメン、雅実。もう限界」
飯田が池野の方へと移動し、池野の肩に手を置いた。
「岡本孝志、あんたも鈍いわね」
飯田からいきなり水を向けられる。
「雅実はね、あんたのことが好きなのよ」
「千香ちゃんっ!」

・・・好き?俺を・・・?
小学校のころからよくモテる司ならともかく、俺を?

「岡本君、ごめんね・・・」
「え・・?」
「わ、私ね、ずっと岡本君に、お礼いいたくて・・・」
しどろもどろに池野が話し出す。
「前、私が朝、皆のノートを運んでたとき、階段であわてて全部落としちゃった事があったの。階段を少し落ちたから体のあちこち痛いし、遅刻ギリギリな時間だから誰も助けてくれなくて、一人で拾ってるのがすごく空しくって・・・。そのとき岡本君が助けてくれたの、覚えてる?」
そういえば、そんなこともあったような気がする。

去年、教室に鞄を置いた後、廊下を歩いていたら同じクラスの女子が階段で転んだ。ノートが落ちる音が盛大に響いた。
朝のチャイムが鳴っていて、通り過ぎる遅刻ギリギリな生徒達は彼女の方を見向きもしない。
それどころか邪魔そうな態度さえ取る。
何かを考える前に動いてた。
大丈夫?と彼女に声をかけノートを一緒に拾い、教室まで運んでやった。

それっきり会話という会話をすることもなく、1年が経った。

「あの時からね、ずっと・・・好きだった」

そう言ったきり、池野は俯いた。
飯田が池野の背中を軽く叩く。

「岡本、あんた彼女いないんでしょ?雅実と付き合いなよ。すごく良い子だから」
「千香ちゃん、いいの。岡本君は私のことなんてなんとも思ってないって知ってるから」
そういう池野の声が少し震えてることに気がつく。
「雅実、泣かないでよ・・・」
飯田が池野の背中をさする。
「岡本、ホントにあんた雅実のこと何とも思ってないの?」
返答に窮する。
泣いた女の子を目の前に、きっぱりと返事をできるほどの度量は孝志には無い。
「どうなのよ、岡本」
「何とも思ってないわけじゃ、ないんだが・・・」
その言葉の意味は良いクラスメイトだと思っている、ということ。
けれども意味どおりにはとられなかった。
「え、岡本君・・・?本当に?」
池野の顔が上がる。
信じられないといったような驚きの表情。
「良かったじゃん、雅実」
飯田の顔には歓喜の表情。
孝志の言葉が意味どおりに受け止められなかったことは明白だが、今更否定できるような空気ではない。
「両思いだったんなんてマジ良かったね。あんたがずっと好きだった岡本と付き合えるんだよ。」
「・・・うん、千香ちゃん、ありがとう。岡本君も・・・」
「いや、俺は・・・」
「今日が付き合い始めの日だね。あ、いけない私もう行かなきゃ。じゃあね」
「えっ、千香ちゃん!?」
池野の引止めにも応じずに、飯田は校舎へのドアを開け、その場から去っていた。
池野と孝志が二人でその場に残される。

「岡本君、ありがとうね」
「え?」
「ノートのこと。あの時ちゃんとお礼言えなくって」
「いや、そんなことは全然」
「あと、嬉しかった。私、絶対に岡本君になんとも思われてないって思ってたから。これから、よろしくね」
返事ができなかった。
否定をしたいけれども、ここまで話が進んでしまった手前どうにもできない。
「そうだ、携帯電話持ってたら、番号とアドレス教えてくれる?」
いわれるがままに、番号とアドレスを交換した。
「夜に連絡しても良いかな?そうだな・・私、今日塾があるから9時ごろに」
返答に窮していると、それはまた別の解釈をされた。
「あ、ゴメン。岡本君も塾とかあるよね・・・。9時はまだ忙しい?」
「いや、家にいるけど・・・」
「じゃあ、連絡しても大丈夫?」
「あ、ああ・・・」
孝志がそう返事をすると、池野は心から嬉しそうな顔。
「じゃあ、9時に連絡するね。それじゃあ、またあとで」

孝志の返事も確認せずに池野は校舎へと降りていった。