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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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1 未来への寄り道




キーンコーンカーンコーン・・・

放課後を知らせるチャイムが学校に鳴り響く。
「今日の授業はここまで。受験生なんだから、しっかり復習しろよ」
金曜日の六時間目、数学の授業は時間ピッタリに終わりを告げた。
それと同時にクラス中が一気に騒がしくなり、きりーつ、と号令がかかる。

「はーぁ、やっと終わった」
そういって自分の席で欠伸をしているのは、松下司。
中学3年生の男子としては、小柄で170センチには少し届かない身長。
その顔は男子にしておくのはもったいないと囁かれるほどの美貌。
けれど、浮かぶ表情には飾り気がなく、近づきがたい印象を与えない。
そして、この3年3組の級長であり、全校でトップの学力の持ち主。

「司、今日は用があるから先に帰ってくれないか」
彼に声をかけるのは、岡本孝志。
こちらは180センチ手前の、クラスで1の長身。一見細いようにも見えるが、よく見るとしっかりと筋肉がついているのがわかる。
こちらも顔の作りは良いほうなのだが、誠実さと不器用さがにじみ出る顔つきのせいで、周囲にあまり認知されていない。

一見、正反対のようなこの二人が、幼馴染でいつも一緒にいるというのは、この学校の者ならば、3年生でなくとも知っていること。今年からは同じクラスになったことも手伝い、いつも一緒という印象はさらに強くなっていた。

「あれ、孝志がなんか用事?珍しいね」
二人の幼馴染は一緒に帰るのが日常だが、今日はそうはいかない様子。

「ちょっとな」
「あ、俺も先生から呼び出されてるんだった。そっちの用はどのくらいで終わるの?」
「・・・見当がつかない」
「いや、いいよ。こっちもいつ終わるかわからないし、今日は別々に帰ろう」
「悪い。あとで、田舎から届いた林檎のおすそ分けに行くと思う」
「ありがと、楽しみにしてる」
司が教室を出て行くと、孝志はそのまま自分の席に戻り、時計をしきりに気にしはじめた。
周りの人間が誰も自分に注目していないのを確認すると、孝志は机の中に隠していたピンク色の封筒を取り出す。
「はぁ・・・」
書かれている内容は
『今日の放課後、屋上に来てください。 池野』
女の子らしい見るからに可愛らしい文字で書かれている。

池野雅実、クラスでも大人しくてあまり目立たない女子というイメージ。
いつも一緒にいる飯田千香はよく目立つが、それもあって余計に池野の印象は弱い。
そういば、池野も飯田も去年から同じクラスだった。

「なんで俺が呼び出されるんだ・・・?」
さっきから頭を悩ませている理由はそれ。
「司なら、何であれ上手く切り抜けるんだろうな・・」
一人ごちに呟く。
どうも自分はこういう駆け引きには長けていない。普段から、思っていることの半分でも言えればいいほうだし、嘘をつくにしてもすぐに顔に出てしまう。
それでも、要領がよくて、交渉も上手い司がいつも傍にいるから困ることなど滅多にないのだが・・・今回ばかりはそういうわけにはいかなかった。

ぐだぐだと考えているうちに、授業終了後からはもう15分も経った。
池野はもう教室にはいない。

一方的な呼び出しとはいえ、無視することなどはなから頭に無い孝志は席を立った。