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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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終章


 天狐組と女郎屋は全焼した。
 そして、組は大勢の組員の失踪と、二本の大きな柱を失ったこともあり、解体を余儀なくされた。
 いつか嵐の晩に助けた娘とお蝶は再会していた。
「お前さんも達者でね」
 人並みの笑みでお蝶は娘を見送った。
「ありがとうございました。いつか旅の途中、私の村に立ち寄ったら歓迎します」
「それは嬉しいこったね」
「はい、それでは失礼します」
 娘は頭を下げてから、眩しい笑顔でお蝶に手を振った。女郎の時とはまるで別人のような顔だ。歳相応な若々しさに溢れた娘がそこにはいた。
 これから女郎たちは国元に帰る者もいれば、帰れぬ者もいる。温かく迎えてくれる家がある者もいれば、またある者は次の勤め先を探し旅に出る。
 お蝶もこれからまた長い旅がはじまる。
 その前に、お蝶は黒子を引き連れ代官屋敷に足を運んだ。
 人っ子一人いない代官屋敷は、不気味なまでに静まり返っていた。
 太い幹をした木の根元で、お蝶と黒子は地面を掘り返した。
 しばらく掘ったみたところで、人の繊手が出た。
 丁寧に土を退かしていくと、血の気もなく蒼ざめた顔が現れた。
 暗い地の底で眠っていたのはお千代の屍体だった。
 さらに掘り進めていくと、骨や半分腐ったような屍体が山のように出てきた。
 代官の餌食となった娘たちの屍体が、ここに埋められていたのだ。
 まだ人の形をしている屍体はお千代以外にもあったが、それらは臓腑を抉られた痕がある。その痕がお千代だけになかった。
 代官が生き血を啜り、お紺が肝を喰らっていたことまで、お蝶は知る由[ヨシ]もなかった。
 最後の犠牲者になったお千代は、その場にお紺がいなかったために、肝を喰われていないのだ。
 血を抜かれ、肝まで抜かれるとは、なんとおぞましい死であろうか。
 お蝶と黒子は屍体に手を合わせて祈った。
 そして、お蝶はお千代が髪に差していた簪[カンザシ]を取り、懐にしまって形見とした。
 しゃがんでいたお蝶が立ち上がった。そのまま上を見ると、人の血肉を養分にした桜が咲いていた。
 美しく儚くも咲き誇る桜。
 もうすぐ冬が訪れるというのに、今日も昨日に続いて日差しの強い日になりそうだった。
 この町から嵐は去ったのだ。

 (完)