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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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四之章


 代官屋敷の奥座敷でお紺は代官にお酌をしていた。
「少し早くはございませんか?」
 酒を飲む早さではない。
「腹が空いておるのだ。全ておまえのせいだぞ」
「一人ずつと、お約束したじゃあございませんか……」
「良いではないか。女に逃げられたのはお主の責めじゃ」
「だからと言って今日入った子にまで、目をつけることはないじゃあございませんか?」
「女などいくらでもいるだろう。なにを案じておるのだ、儂を誰だと思っておる?」
 その問いに答える代わりにお紺は目を伏せた。目はなにかを言いたげだ。
 月に一人という約束だった。
 それが今月は、一人目に逃げられた挙句に死なれ、二人目にも逃げられ子分たちに探させている最中だ。代官は二人目がいるにも関わらず、堪え性がなくお千代にも目を付けた。お千代に印を付けたのは、二人目が逃げたという話が入る前だ。
 代官という地位があれば、政[マツリゴト]の範囲内ではいくらでも隠し事が利くだろう。
 しかし、悪い噂が立てば立つほど女郎たちは言うことを聞かなくなる。
 それにもうひとつお紺は危惧していた。
「逃げた娘を探しに出した子分から連絡がございません」
「逃げた娘がまだ見つからんだけだろう」
「それだけなら宜しいんでございますが、お代官様もくれぐれもご注意を……」
 お紺はゆらりと艶やかに立ち上がり軽い会釈をした。
「それでは御機嫌なすって」
 奥座敷をあとにして、障子を閉めたお紺は呟く。
「……糞爺め」
 その呟きは完全に雨音に掻き消された。
 代官屋敷を出たお紺は御付きを従え歩き出した。
 雨風が強く、御付きが持つ行燈が激しく左右に揺れている。
 灯していた行燈が雨に濡れてすーっと消えた。
 闇の中でお紺の形相は見る見るうちに歪んでいった。
「どいつもこいつも、腹の立つ奴らばかりだね!」
 怒りが最高潮に達したお紺は、その長い爪を前にいた御付きの背に振り下ろしていた。
「ぎゃぁぁぁ!」
 御付きの背が血を噴いた。
 地面に両手をついた御付きにお紺は冷笑を浴びせ、裾を捲し上げて御付きの腹を蹴り上げた。
「ぐがっ……」
 胃の内容物を吐露した男にお紺を軽蔑した。
「汚らしい真似すんじゃないよ!」
 御付きの後頭部は力強く踏みつけられ、頭を地面に激しく打ち付けられた御付は絶命した。
「こんな下男を殺しても腹の虫が治まらないよ」