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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 首に印を付けられた女郎は獲物だと皆噂する。その印を付けられた者に限って姿を消すからだ。中には印が付けられたあとに足抜けをしようとする女郎が数多くいる。
 前に印をつけられた女郎は足抜けをしようとした。けれど、それは成就することはなかった。この町にお蝶が来てはじめて出会った女郎だ。
 あの女郎が死んだ日のうちに、今お蝶たちの前にいる娘は印をつけられたらしい。今日、お千代が座敷に呼ばれるよりも前、日がまだ昇っていた頃のことだった。
 代官は一日うちに何人の女を抱いているのだろうか?
 あの枯れた躰からは信じられないことだ。
 印を付けられた娘は逃げた。それからすぐにお蝶たちに助けられたのだ。
 そして今に至る。
 お蝶は難しい顔をして腕組みをした。
「本当にお代官様が事件に関わりあるっていうのかい?」
「はい、いなくなった者はみんなお代官様に印をつけられた者でした」
「多くの女郎がいなくなったっていうのに、あの女元締めさんや天狐組みの親分さんはなにもいわないのかい?」
「元締めはきっとぐるなんです。絶対そうです」
「あの元締めはなにか臭うとは思っていたけどね。まあいい、今日はゆっくりとおやすみ、病み上がりの躰に無理をさせちゃあいけないよ」
 お蝶は娘をふとんに寝かし、掛け布団を優しく被せてあげた。そのまま相手の瞳を覗き込みながらお蝶は言う。
「町の外まで送ってあげたいけど、あたいらはまだこの町に用があってね。店の者に金を握らせておけば、多少は匿ってくれるだろうよ。けどね、危なくなったらひとりでお逃げ」
「待ってます」
 宿を出た途端、天狐組みのやくざに出会わないとも限らない。
「そうかい、用が済んだら隣村でも町でも、好きなところまで送ってやるよ」
「ありがとうございます」
「あいよ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 娘は静かに眼を閉じた。闇は訪れなかった。ゆらゆら揺れる蝋燭の火が瞼の裏に映る。
 闇の中で娘は眠ることができないだろう。
 これからずっと……。