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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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「えーと。初めてでしたね……更衣、ってサライって読むのかな」
――はい。
「雨夜は……、アマヤ、で合ってるよね」
――ええ。
「君達は、兄弟だっけ? 双子? ……にしては、似てないけど。でも、同い年なんだよね?」
 うーん、と彼――早倉井羅草は唸る。
 温厚そうな顔立ちの、まだ若そうな先生である。染めてでもいるのか、少し茶色がかった髪は寝癖かセットか、所々跳ねていて、しかし決して軽くちゃらちゃらした印象を与えない……一言で言ってしまえば、親しみやすくて優しそうな男性だった。
「あ! そうか君達、年子なんだ」
 納得して、早倉井先生は一人肯く。
「にしても、両親はさぞかし美男美女だったんだろうね。そろいもそろって綺麗な顔しちゃって」
 笑いながらそんなことを言う。……紅也は分かるが、俺まで褒められて良いのだろうか。
「いやあ、美形二人に見つめられちゃうと、照れちゃうねえ」
 …………。大丈夫なのだろうか、この人。
 俺が言葉を失っていると、紅也が口を開いた。
「あの……実は、今日は診療ではなくて、早倉井先生――貴方に、お聞きしたいことがあって来たんです」
「え? ……あれ、診療じゃないの?」
 目を丸くしている先生に、紅也は肯いてみせる。
「僕達は、実は兄弟でも何でもありません。……彼は更衣雨夜ですが、僕は葉暮紅也と言います」
「葉暮……。そうかそうか。うん、君は確かに『葉暮』って感じだね」
 って、おい。感覚で信じてしまって良いのか。
「いやー、でもそうだったのか。見事に騙されちゃったよ。雨夜君、君、演技力あるねえ」
――はあ、どうも。
 一応頭を下げたが、内心穏やかではない。
「それで、話ってなんだい」
 にこやかに問う先生に、俺は言う。
――咲屋灰良という少女に、心当たりがありますよね? 彼女のことです。
「…………ハイラちゃん、か。……彼女、また何か――」
「いいえ。彼女が何かをしたわけではありません。ただ、彼女の家族について知りたいんです」
 紅也が、先生の言葉を遮る。
「君達――彼女とは、どういった関係なんだい?」
 眉をひそめながら問う先生に、紅也は答える。
「僕は友達です。雨夜君は、咲屋さんの姉と名乗る少女に、脅迫されました」
「…………!」
「これ以上、咲屋さんに近付くな、と」
「……その、姉と名乗った少女は、自分のことを何て?」
「朱露、と名乗りました。咲屋朱露、灰良の双子の姉である、と」
 紅也の言葉を聞き、先生の顔から血の気が引いた。真っ白な顔で、先生は呟く。
「……なんで……どうして。一体どうなっているんだ?」
「それが知りたくて、先生のところへ来たんです。咲屋さんから、先生のことは聞いていましたので……」
 早倉井先生は、首を振った。
「そんなわけない……彼女が、いるわけがない。生きている筈が――」
――…………? 先生、今何て……?
 俺が聞き返すと、先生は大きく深呼吸して姿勢を正し、俺と紅也をまっすぐに見た。
「咲屋朱露は、もうこの世にはいない。……死んでしまっているんだ」
――な。……それなら、俺を脅したあの、彼女は一体……?
「分からない。たちの悪いいたずらか……」
――そんなはずありません! 有り得ない! 彼女は、咲屋にそっくりだった!
「見間違いじゃなかったんだね?」
――ええ。間違えるわけがありません。
 あの至近距離で。あの、耳元まで近付いた彼女を。――間違えるわけがない。
「それなら――……」
「幽霊、ですか?」
 紅也が、跡を引き継いだ。
「……そう、だ……」
 何かを諦めるかのように、早倉井羅草は天井を仰いで、ため息をついた。
「本当に……彼女……いや、その少女は、早倉井朱露だと名乗ったんだね? ……間違いないね?」
 先生が真剣な目で、俺に確かめる。俺が肯くと、机の上に両肘を突いて、その上に頭を載せた。なんだか、物凄く悩んでいるように見える。
――……なあ、紅也?
 ひそひそ声で、俺は紅也に話しかける。
「なんだい?」
――このセンセイ、本当に大丈夫なんだろうな? ……ってか、俺達法に触れるようなことはしてない……よな?
「ああ……君が言いたいのは、咲屋さんの個人情報を彼から聞きだせるのか、ということだね? 大丈夫、その点なら問題ないよ。彼はきっと、答えてくれる。教えてくれる。僕達に、情報を……僕達に必要な、情報を」
 妙に確信のある風な口調に、俺は無条件で納得してしまった。あれ、でもこいつ、法に触れてないとは一言も言わなかったな……。
 俺が冷や汗をかいていると、早倉井先生は決心したように顔を上げ、俺を見、続けて紅也を見た。
「……そういうことなら、仕方ないな。僕の知っていることを、話した方が良さそうだ……」
「そうしてくださると有難いです」
 紅也は落ち着いた声で答える。早倉井先生は憔悴しきった顔で、それでも何かしらの覚悟を秘めた目で、肯いた。
「雨夜君、それで――何が聞きたい?」
――俺は……
 何が聞きたい? それは、勿論――
――咲屋の病気から何から……特に朱露、彼女のことについて聞かせていただけませんか。
「そう……。そうだね。じゃあ、僕が知っていることを……順を追って……いや、追えないかな、ははは……。まあともかく、何でも話そう。……知っている限りのことを」
 早倉井先生は力なく笑い。
 そして、話し始めた。