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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

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 ホラ貝の音と共に、千駄ヶ谷駅に攻め入ったネロ達だったが、そこには戦闘能力のない町娘風の女や旅人風の男など勢力とは言い難い個人が行き交うに過ぎなかった。
「戦闘解除。敵はいないようだ。すぐにこの駅を制圧する。早急に砦を築け」
 ネロの言葉を聞くと、伊達家の武士達は、砦の築城に取りかかった。徐々に守りが強くなる様子が見えてくるとネロは僅かに笑みをこぼした。しかし、即座に怪訝な顔をして真之介を見つめた。
「どうして駅を制圧したのに、今いる者達を追い出さないんだ? 新宿駅もそうだが、伊達家に関係のない者達が跋扈しているのが理解できない」
「それは、どの勢力にも属していない者には手を出さないという暗黙のルールがあるからです。それに我々の腹一つで電車の乗車権が剥奪されることもあるわけです。つまり、電車という便利な乗り物を利用するためには我々に服従しなくてはならなくなる。閉め出すよりも好都合だと」
「なるほど。人心を掴むには与えるべし。まさにその通りだ。駅を制圧するとそんなメリットがあるのだな」
「その通りです。それで伊達家の軍門に下る者も多いそうで」
 そんな会話をしているうちに、新たに電車が来た。
「間もなく二番線に電車が参ります」
 新宿方面から来た電車には、伊達家からの援軍が乗り込んでいた。
「次の駅に乗り込むことにする。伊達家の諸君はそのまま築城と警護にあたるように」
「はっ!」
 ネロ達は電車に乗り込み、次の駅を目指した。
 次の駅は信濃町駅。千駄ヶ谷駅と同じく、他の路線が乗り入れていない駅だった。この駅は地元のヤクザが根城として陣取っていたが、伊達家とネロ達により難なく制圧して次の駅へ向かった。
「次が帝国陸軍から制圧されていることが想定される四ツ谷駅です。ここからが本番と言えるでしょう」
「真之介さん、そんな深刻な言い方をする必要があるのか? いつも通り粛々と目の前の任務を遂行するのみ。違うか?」
「それはそうですが……」
 これまで伊達家は、帝国陸軍との戦闘を避けていた。それは帝国陸軍が伊達家すらも躊躇する戦力を誇っていたからである。暗黙の了解で地上と地下で棲み分けていたのも、互いの戦力が無用に削がれるのを防ぐため。ある意味歴史に残る戦闘になるかもしれないのに、ネロはいつもと変わらぬ様子。真之介は今更ながらネロの底知れぬ可能性を実感した。
「親衛隊及び、伊達家の諸君。次は間違いなく戦闘になる。各員戦闘準備」
「おう!」
 皆、右拳を上に突き上げ、士気を上げていった。
「あなた、結界をはれ」
 ネロは親衛隊の一人に目配せすると、結界をはるように促した。
「御意」
 その親衛隊は、懐からワンドと呼ばれる木の棒を取り出すと、床に六芒星とそれを囲む円を描いた。ワンドにはインクのようなものが付いていないただの棒だったが、ワンドが描く軌跡に沿って光り輝く線が床に刻まれていった。
「ウイン コロッソ プル マッハ。ジョジン グンバリン トローエン」
 この瞬間、六芒星から上向きの強い風がわき起こり、その風が銀色に輝いた。
「出でよ、我が精霊セルポップ」
――――バリバリバリ
 皿が割れるような音を立てつつ、六芒星から人間の大きさのフランス人形のような女性の精霊が出てきた。
――――カシャ……カシャ
 操り人形のような不自然な動きをしながら召喚した親衛隊の前へ歩み出た。
「敵の攻撃を全て受け止め、その者に倍の威力でもって返すべし。プロテクト フロム エネミーズ!」
 そう言いながら、懐から小瓶を取り出すと、精霊の頭にその瓶に入っている青色の液体をふりかけた。同時に目を青白く光らせる精霊だったが、しばらくするとゆっくりと口角を上げ、不気味に微笑んだ。
「私はセルポップ。私はあなたの虜。あなたの下僕。あなたのためあらば神をも敵に回す。それが私の誇りなの……」
「これがなければ完璧なんだがな……」
 親衛隊は、ため息をつきながら呟くと、作り笑いをしながら精霊を見つめた。
「ああ……愛しのセルポップ。私のために一肌脱いでくれ」
 そう言いながら、脇に差している刀で親指を軽く切ると、滴り落ちる血を精霊に差し出した。
 その様子を見たセルポップは、更に笑みを浮かべながら、親衛隊の指を貪るようになめた。恍惚の表情を浮かべるセルポップ。対して、親衛隊は顔を引きつらせていた。
「分かったわ。敵の攻撃を全て受け止め、その者に倍の威力でもって返すべし。プロテクト フロム エネミーズ!」
「いつもの茶番は終わったか? もうすぐ駅に着く」
「はい。準備は終わりました。いつでも迎撃可能です」
「よし。伊達家の諸君。駅に着いたら、ホームに降りた後、敵に武器を構えるだけに留め、攻撃をするな。仮に敵からの攻撃が来ても心配はない。何一つ攻撃があなた達に届くことはない。私の指示を待って攻撃するように」
「おう!」
 戦闘間近になり、緊張が高まってきた。
「次は、四ツ谷。お出口は右側です。」
 四ツ谷駅が見えてきた。ネロ達が降り立つホームは三番線。既に土嚢が積まれ、ネロ達を迎え撃つ形で、帝国陸軍の戦闘服に身を包んだ兵が機関銃を構えていた。その数数百。ネロ達を凌駕していた。それでもネロは動揺することなく、戦闘開始を告げるホラ貝の音色を背にしながらホームに降り立った。それに続くように親衛隊達や伊達家の武士達も降りていった。
 ホーム上でお互い兵器を構えたままにらみ合いが続いた。緊張感が極限に高まっているのに誰一人言葉を発しない。何も音がなく静まりかえるばかりで、お互い身動きが取れずにいた。
 その均衡を破るように帝国陸軍側から、一人の男が歩み出てきた。
 その男は、他の兵とは違い勲章を胸に付け、軍帽を身につけており、明らかに階級が高いことが想像できた。目つきが鋭く、それでいてネロ達を見下ろすような冷たい表情を浮かべながら前を見据えていた。
「私は中央線地上司令官、陸軍大将、土肥原賢二である。四ツ谷駅においては地上も我が日本帝国陸軍の勢力下である。貴様等伊達の出る幕ではない! 武士の腑抜けた火縄銃では我が軍においては暇つぶしにもならぬ。ましてや剣で対抗するなんぞ愚の骨頂。我が軍が貴様等に温情を与え、あえて陸上の覇権を渡してやったのに、その恩に気付く脳もなく……」
――――ビシャ……
 得意満面の笑みを浮かべながら演説をしていた土肥原の頭部が、一瞬にして消えた。代わりにネロの体から伸びる巨大な蛇が土肥原の体を締め付けるようにとぐろを巻いていた。蛇は土肥原の頭部を咥え、飲み込もうとしていた。
「現世ではいくら痛めつけても即座に再生される様子。でも食べられたらいつまでたっても再生されない。敵をなめて、無防備になるからこの結果だ。戦の勝敗を決する要素とは兵の数ではない。ましてや武器の優劣でもない。それを操る者の知恵なのだよ」
 ざわめく帝国陸軍。司令官を瞬時に失った動揺は激しいものだった。それに追い打ちをかけるようにネロは更に言葉を続ける。