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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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第16章「地獄の楽園」


 その頃、ハマス共和国では、戦略会議が行われていた。
「ハマス共和国の守りは極めて脆弱。敵に滅ぼしてくれと言っているようなもの。それでよく私の体を奪還できたな」
 ハマス共和国の幹部として新たに加入したロンは、他の幹部を見渡しながらぼやいた。
「だから今までアジトがばれないように細心の注意を払ってきた。外から出入り口が見えない洞窟だったらどうにかばれないからな。でも表に出てきた以上、隠れてばかりはいられない。俺はロン君の意見に同意する」
「リストって、まだカルバリンの砦のこと根にもってるの? 執念深いサドって嫌だねぇ」
「マユちゃんったら……」
「いや、あの時はカルバリンの砦を制圧するしか手はなかった。マユ君の判断に異を唱えるつもりはない。そのお陰でハマス共和国の人口が増えてのも否めないしな」
「俺もよ、リストの兄ちゃんの言うこと間違ってねえと思うぜ。変態のねえちゃんのやったことも間違ってねえ。でも今のままじゃ駄目だって言てえんじゃねえのか?」
 リンの言葉に反論できる者は誰もいなかった。こればかりはどう考えても覆らない事実。ハマス共和国が生き残っていくためには、国を強くしていく必要があった。 
「私には分からないことばかりだ。どうしてこの国には兵隊がいないんだ? 武器も一切ないではないか。どうやって敵の武力に対抗するのだ?」
「ロンさん。ハマスに兵隊は必要ありません。私は人を傷つけません」
「はあ? 兵隊なしにどうやって対抗するんですか!」
 武力なしにどうやって切り抜けるのか。
 ハルと行動し始めた際に必ずわき出る疑問。ロンも同様に感じたのである。
「ロンさんよ。姉御はそうやってここまで来たんだよ。あんたもそうやって助かったんじゃねえのか?」
「カルバリンの砦は、君達の知恵でどうにかなったかもしれない。お陰で私も助けてもらった。それは認めよう。しかしな、ローマ帝国や殷から身を守れるか? 戦争は兵の数で決まる。明らかな定石ではないか。総攻撃を食らったら小細工は一切通用しない。ハル様も分かってもらえますよね?」
 ロンの言葉に誰も反応できなかった。皆同じ事を考えていたからである。しかしハルは違った。
「いえ、きっと策はあるはずです。きっと……」
「その策を考えるのが私の役目ってね。しょうがないなあ。頑張ってみるとするか」
「実行役は俺か! 何でも言ってくれ」
「えー? 頼りないなあ」
「何だよマユ。決まったと思ったのに」
 楽観的すぎるハル達の言葉にロンは呆気にとられた。
「きっとって……そんな甘い考えでどうするんですか? 国の存亡がかかってるんですよ?」
「ロン君。俺も初めはそう思った。まあ黙って見ているといい。ところで論点を整理しよう。我々ハマス共和国に足りないところ、鍛えなくてはならないところ」
「リストが仕切ってる。それ私の役目よ。私が思うに国境の守りを固めたい。まずは城壁あたりがほしいね」
「建物を幻影で造ることが出来る人はいるんですよね?」
 ロンはため息混じりに呟いた。
「いたっけ?」
 マユは笠木を見つめた
「いませんね……」
「城壁もなしでどうやって守るんですか!」
「ロンちゃんはいちいち反応が大きいんだよ。それをどうするか考えるんじゃない」
「新たに能力を開発するのは難しいのだぞ。それに何だロンちゃんって!」
「いちいちうるさいから無視するよ。城壁とかどうやって造るかというのが課題っと。あとは、武力なしにどうやって対抗できるかだよね」
「結界はったらどうだ? 俺の龍結界みたいに」
「龍のところは突っこまないよ。結界いいけど、それだけでは弱いね」
「だったらどうすればいいんだよ」
「そこなんだよなあ……戦いなしで勝つ方法……」
 これまで幾多の危機を乗り越えてきたマユの戦略をもってしても打開策を見付けることができなかった。誰も言葉を発する事ができないために静まりかえった会議室は、ため息しか聞こえなかった。
 重苦しい空気が流れながらも、ハルの理念である「誰も傷つけないでみんなが救われること」を覆そうとする者は誰もいなかった。それだけハルの存在感は大きかったのである。
 その存在感は天界にも轟いていた。検察官ダニークルトンもその一人。ダニーは、ハルの正体が伝説のガブリエルであるハル・エリック・ジブリールだという確信を得るために、転生管理局の局舎に足を運んでいた。 
 転生管理局の局舎はギリシャの神殿を彷彿とさせる白い柱と壁が続いていた。所々に転生管理局の象徴である知恵の木の両脇にアダムとイブをデフォルメした図形が刻印されていた。
 局舎の中央は中庭のような空間があり、木々が茂っていた。この木々は転生管理官の主な勤務先になる現世の風景を再現されたものだった。
「私は三等検察官、ダニー・クルトンである。捜査のため、局長ラファエル様への接見をお願いしたい」
「面会許可証の提示をお願い致します」
「承知した」
 ダニーは、面会許可証を手に取ると、目の前にいる受付の天使に提示した。受付の天使は面会許可証を受け取ると、青い光を発する棒状の機械を手に取り、面会許可証にかざした。この機械は局長級の天使に対するセキュリティのため、面会許可証本物かどうか判別するものである。
「お待たせ致しました。ご案内致します」
 ダニーは受付の天使に促されるままついていった。天使が慌ただしく行き交う中、ダニーは颯爽と歩いて行った。そしてエレベーターに乗り込むと、受付の天使は最上階にあたる五四階のボタンを押した。暫くすると最上階の五四階に到達した。エレベーターの扉が開き、暫く歩くとすぐに扉があった。その扉には「転生管理局局長ラファエル執務室」と書いてあった。受付の天使はそのドアをノックすると
「ラファエル様、ダニー様をお連れしました」
 と言った。
「ダニー君、入り給え」
 優しく透き通る声でありながら、鋭く突き刺さるような声。たった一言しか発していないがそれだけ存在感があった。ダニーはラファエルの声を聞いてその迫力を一身に浴び緊張が走った。
 暫くすると受付の天使により扉が開かれ、執務室の様子がダニーの目に飛び込んできた。ラファエルの執務室は、四十畳程の広さで、壁一面にメモリーディスクと思われるディスクが敷き詰められていた。正面には格調高い彫刻が施された机があり、その机にラファエルが腰掛けていた。
 ラファエルは銀色のきめ細かい長髪に、立つと二メートルはあるだとう長身だった。すらっとした体型をしており、一見弱々しくも見える細さだったが、悠然とした佇まいは見る者をうっとりとさせた。その表情は一見無表情とも思える程のものだったが、その瞳は全てのものを見通してしまうかのような鋭さがあった。
「ダニー君、地獄からはるばるご苦労だったね。掛け給え」
「私がどうしてラファエル様に面会を申し出たかお分かりですよね?」
「分かっていなければ、私が汝の面会許可を下ろすはずもないだろうと?」
「その通りでございます」
 自分の意図を全て見抜いている。ダニーはそう思わずにはいられなかった。だとすると小細工は不要。ダニーは、直接ぶつけてみようと結論づけた。
「勿体ぶらず、単刀直入に聞いたらどうだね」