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under rain ~地下に降る哀しみ~

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 無愛想で協調性の欠片もない黒猫は、甘党である事が酷く意外に思われる。だが事実として冷蔵庫の冷凍チルドには、大量のチョコレートが備蓄してある。ギャップを物ともしない黒猫の図太い神経には、その程度の事はどうでもいいと斬り捨てる次元の話だ。
黒の本革ソファに深く腰を落ち着ける。心身共にリラックスした最良のコンディション。チョコレートのブロックを1つ口に放り込んだ黒猫は、残り少なくなったミルクティーを飲み干した。口内の余韻に浸りながら、マグカップをガラス製テーブルに置く。
小物入れにストックしてある煙草に手を伸ばして、黒猫は目覚めの一服を堪能し始めた。時刻は午後7時を回ろうとしている。覚醒直後から約1時間が経つが、未だ動き始める気配はない。

 更に30分が経った頃、黒猫の表情が一気に引き締まる。マイペースでスロースターターである彼の仕事モードに切り替えるスイッチは、一体どこにあるのだろうか。
何にせよ彼の重い腰を浮かした折角のチャンスを無駄にはしない。変な話ではあるが、彼の敵は常に自分の中にいる自分自身なのだ。動きやすい服装に愛刀の虎徹とバイクのキーに煙草セットを持ち、黒猫は自宅を後にした。自宅マンションの駐輪場から、ターゲットの出没が顕著な現場へと向かう。
殺し屋の仕事というものは、アニメや漫画の主人公のような華やかなものではない。実力による差異はあるにせよ、大概の依頼はターゲットの情報を元に待ち伏せ、ターゲットが現れ次第依頼内容の執行をするというものだ。
今回の暗殺依頼はまだまだ楽な仕事ではあるが、ターゲットを探し出さなければ全く成果の上がらない仕事。運良くターゲットと遭遇出来る可能性は万に1つもあるか分からない。
中型バイクの漆黒でしなやかなフォルムが、小さな隙間を縫う風のように走り抜けた。ムーンライトの仄暗い夜に黒猫の姿が溶け込んでいく。少年の振るう刃がやがて、世界に大きな波紋を落とす事になろうとは。この時は、まだ誰にも分かってはいなかった。