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ツカノアラシ@万恒河沙
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ぐらん・ぎにょーる

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黒薔薇男爵登場




満月の夜。空には血のように真っ赤な月が掛かっていた。
夜中の葬式行列。滅多に人が歩いていない細い小道を行列は歩いていた。彼らは西洋風の黒い柩を掲げ持って、しずしず歩いている。皆一様に無言で無表情。奇妙な行列。行列の先頭には、裾の長い黒いドレスに白いエプロンを身に付け、頭にヘッドドレスを着けた女中さんが右手にランタン、左手に鈴を持ってしずしずと行進している。ちりん、ちりんと女中さんの持っている鈴が鳴る。
彼らは一体どこから来て、どこへ向かおうとしているのか。夜中の行進。奇妙な行進。
そこに通りがかったのは、主従と清廉潔白探偵事務所の所員さん。『少女探偵』は珍しく白い大振り袖に黒い帯を締めた姿をし、従者は黒い夜会服を着ていた。因みに鬼堂篁は赤いドレスを着ていた。深いスリットから見える黒い網タイツごしのおみ足がなかなか扇情的である。どうやら、どこかの会合か何かの帰りらしい。三人の内、夜会服姿の巽が異常に不機嫌そうなのが目につく。人の良さそうな笑みを絶やさない輩にしては珍しい事である。何が不本意な事でもあったのだろうか。理由を聞くのも、想像するのも恐ろしい。触らぬ神に祟りなしである。
「巽、アレが欲しいな」
玲は巽の不機嫌を見なかった事にして柩を指差して強請った。どうやら、玲は非常に柩と行列が気になると見える。さてはて行列のどこが、玲の琴線に触れたのだろうか。まぁ、見た目からして普通の行列ではないので、恐らく柩の中も普通ではないだろう。とにかく、これ見よがしなおかしな行列である事は確かである。
「アレが、お気にかかりますか。玲様」
「中に何が入っているか気になるじゃないか」
巽の問いに、玲は閉じた扇の先を唇にあててくすくすと笑う。すっかり興味をそそられているらしい。好奇心は猫をも殺すと言う格言を知らないのか無視しているのか解らないが、玲はすっかり何か面白い悪戯を考えた子供のような表情をしている。
「仕方ありませんね。、屍人ばかりですし、蹂躙致しましょうか」
巽は仕方ないとばかりにため息をつき、微かに苦笑のようなモノを顔に浮かべる。そして、女中さんの前まで歩いて行くと道を塞ぐように立ちはだかった。道を塞がれた形になった女中さんは、巽の前で立ち止まり戸惑ったかのように機械的な動作で小首を傾げた。今にもキリキリキリと螺子の音がしそうな位に不自然な動きである。某エクソシストみたいに首がぐるぐる回ったらどうしよう。
「どいて戴けませんか、早く主にこれお届けしないと主に叱られてしまいますの」
女中さんは、奇妙な笑みを浮かべて言う。それに対して巽はにっこり笑うと、腕を一閃させた。いつの間にか、手には日本刀を持っている。可愛らしい女中さんの顔を半分にした。半分になった女中さんの頭から這い出るは得体の知れない芋虫のような蟲。蟲はうにうにと身をくねらせ、上体を起こすと歯を剥き出して巽を威嚇するといきなり飛びかかった。なかなか不気味な蟲さんである。
巽は無表情のまま蟲を縦に一刀両断する。びくびくと痙攣する蟲の残骸。飛び散る体液。巽は、今日は相当に機嫌が悪いらしい。
それを合図にして他の行列の人たちも柩を路上に置くと威嚇しながら、異様に尖った爪を用いて次々と襲い掛かって行くが機嫌の悪い巽の敵ではなかった。次々に真っ向幹竹割りされてしまう。可哀相な事、この上ない。どの屍体からも女中さんと同じ蟲が身悶えながら這い出す。どうやら、彼らはこの蟲に取り憑かれ屍人になった上に何者かに操られていたらしい。さて、誰に操られていたのだろうか。とにかく、ものの数分でその場に立っているのは三人だけになる。足元には死屍累々。
「全員、見事に蟲付きでしたね」
巽が自分で作った死屍累々を見下ろしながら言った。形の良い指をぱちんと鳴らすと、闇の中から湧き出るかのように得体の知れない生き物が現れる。怪しげな生き物は嬉々としなが死屍累々の山を片付け始めた。血を啜り、骨肉を咀嚼する音。どうやら、路上を綺麗にしてくれるみたいである。なかなか便利な生き物である。ただ余り近くで見たくない光景ではあった。
「だから、気になったんじゃないか。さて何が入っているかな」
玲は持ち運ぶ者がいなくなった為に路上に放置された柩を見ながら言ったのであった。
それから暫くして、黒い柩は事務所の書斎に運び込まれいた。玲が嬉々としながら柩を開ける。すでに先程まで着ていた白い振袖は脱ぎ、男物の黒い和服を着ている。
柩の中には、眠れる少年。玲の背後から柩の中を覗いた二人は次の瞬間目を反らし手で顔半分を隠してあらぬ方向を見据える。いまにも、「あちゃー」とでも言いたげだった。
柩の中の『儚い』を絵に描いて花丸をもらったような少年は、何故か白無垢を着て黒薔薇に埋もれていた。柩と花嫁衣裳とは余りにも似つかわしくないモノなのは言うまでもない。柩の中の少年はぐったりとしているが胸が微かに動いている事から別に死んでいるわけではないらしい。
何故ゆえ少年は黒薔薇が敷き詰められた棺の中に入っているのだろうか。謎である。このまま放置しておくわけにもいかず、巽が女中さんの松風とぐったりしている少年を奥の部屋に連れて行く。それを見送った篁が玲に向かってにやにやと笑いかけた。
「こうい場合、普通は可愛い女の子を入っているのがセオリーじゃないのか」
「まぁまぁ、そんな事は仰らずにお姉さま。ここは、成り行きに任せましょう」
玲は澄ました顔でいけしゃあしゃあと言う。それを聞いて篁は目を眇めると、ぽつりと言った。篁は指で煙草を一本持って弄んでいる。口寂しいが、ここの性悪執事が煙草を大の苦手としているので吸うことができない。万が一、ここで煙草を吸ったが最期、名状しがたい恐ろしい事を起きるに違いない。篁はそんな羽目にはなりたくなかった。やはり自分の身は可愛いものである。
玲がくすくす笑いながら篁をとりなしていると、巽が書斎に戻って来る。彼にしては、微かに眉根を寄せて珍しく軽く困ったような表情を浮かべていた。何があったのだろうか。今日はどうも色々と調子が狂っているらしい。玲と篁は思わず顔を見合わせる。どうしたのかと玲が尋ねると
「玲様、このような物が来ておりました」
と、言って巽が一通の封筒を差し出した。表書きには達筆で『挑戦状』と書かれていた。怪人ものとしては、古式ゆかしい手段である。先ほど、村雨が受け取ったそうですと巽は捕捉する。
「しかも、配達人の方がここにいらっしゃるのですが如何いたしましょうか」
確かに、巽の後ろには当たり前のように紺色の古風な制服を着た男が立っていた。男はニヤリと笑うと、ばばっと着ていた物を脱ぎ捨てる。宙に浮いた制服がヒラヒラと床に落ちた。演出効果の向こう側にはマントに夜会服姿の男が気取りまくった様子で立っていた。いつどのようにして着替えたかは聞かないで欲しい。
「満を持して黒薔薇男爵参上。我が麗しの花嫁を横取りした不埒な輩はこちらかな。折角、蟲まで使い練りに練った攫い方で攫ったのによくも台無ししてくれたな」