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冒険倶楽部活動ファイル

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ファイル10 行く年来る年


 今日は12月31日、もうすぐ今年も終わろうとしていた。
 私達は家で夕飯の年越し蕎麦を食べ終えると部室に集まった。
 暖房が点けられた部屋の中で私達は新しい年を迎えようとしていた。
「今年ももうすぐ終わりだね」
 功治君が部屋の振り子時計を見る、
 時刻は11時を回ったところだった。
「今年の紅白どっちが勝つかな?」
「そりゃ白だろ、あのグループ出てるんだし」
「そうでもないよ、あのグループ最近人気無いし…… ほのかちゃんはどう思う?」
「えっ?」
 私は返答に困った。
 音楽なんて殆ど興味ないからだった。
「さっきから何してるの〜?」
 舞加奈ちゃんが尋ねてきた。
 私は今まで溜めて置いた冒険倶楽部の出来事を本格的に原稿用紙にノベライズしていた。
 本名は辞めた方が良いからみんなの名前は変更し、冒険の事は出来るだけリアルに、そして面白く書くつもりだった。
 最もこれを書き始めたのは7月からだから4月から6月の部分が少し曖昧になってる所もある、
「そうそう、そう言えばこんな事やったな」
 出来上がった部分を秀君は微笑しながら見ていた。
 雨の上がった日に行ったサイクリングや、夏休みにみんなで海水浴場で泳いだり、岩場で釣りをしたり、はたまたお盆に秀君の従兄妹達と会った日(鯨那君はこの日はカキ氷の食べすぎでお腹を壊して来れなかった)の事や冒険倶楽部の夏合宿など、一学期から夏休みにかけての事は大体書き終えた。
 後はみんなで子供会の肝試しに行った事、そしてあの花火大会の日の事を書いて一学期編は終わりだった。
 勿論冒険の日以外に起こった事やみんなのエピソードも書いてある、
 龍太郎君の道場の試合にみんなで応援に行った事に天体観測に出かけて功治君がはしゃいでた事、羽須美ちゃんが要らなくなったシーツで作ったウェディングドレスを持って来た日の事に舞加奈ちゃんの発明好きなお祖父さんの家に遊びに行った日の事、秀君が球技大会のソフトボールでホームランを決めた事も全て書いた。
「そうそう、この時はさすがに負けるかと思ったけど、諦めなくて良かった」 
「奇麗だったよね、ペルセウス座流星群、来年も見たいな〜」
「ウェディングドレスって結構難しかった。でも女子のみんなは喜んでくれたよね」
「お祖父ちゃん、今度はソーラーカー作るんだって〜、早く乗りたいな〜」
「みんなが頑張ったから勝てたんだよ、ほのかだってバレー頑張ってただろ」
「う、うん……」
 私は頷いた。
 私達は結局負けちゃったけどね、
「だけど良く覚えてたよね、私なんかすっかり忘れてた」
「覚えてたって言うか、その日起こった事を寝る前に書いただけだよ」
「でも凄いよ、これいつ発売されるの?」
「いや、発売はされないけど……」
 功治君には悪いけど出版者に認められない限り小説は出版されない、
 いざとなれば自費出版って手もあるけど、私のお小遣いじゃ圧倒的に足りない、今から貯金でもしておこうかな……
 何て考えているとその時だった。
「何を言っているんですか、一言言ってくれれば海原グループが全て援助いたしますよ」
「い、鯨那君っ?」
 入り口に紋付袴の鯨那君が立っていた。
 だけど着物に刻まれてる紋章は海原グループの家門じゃなくて鯨那君のグループのシンボルマークだった。
 2本のサーベルの刀身が左右で交差し、その上から目付きの悪い、歯を見せて笑ったマッコウクジラが丸まったような海賊旗を思わせるデザインの、鯨那海賊団(鯨那君命名)のマークだった。
「いつの間に?」
「どっから沸いて出たんだお前は?」
「人をフジツボみたいに言うな! ノックしても出ないからだろうが!」
 聞えてなかった。
 と言うよりみんな小説に集中してたから気付かなかったんだろうな……
「とにかく、お金が必要ならいつでも言ってください、この海原鯨那が援助いたします! 何ならいっそオレと結婚すれば海原家の財産は貴女の物に……」
「き、気持ちは嬉しいけど大丈夫だから……」
「って言うか伯父さん達の金だろ、お前の金じゃないし」
「ええい黙れっ! 親父の金はオレの物、オレの金はオレの物だ!」
 どこかのアニメのガキ大将みたいなセリフを言って来た。
「それにしても今日は早いね、いつもは年を越してから来るのに」
「ああ、1秒でも早くほのかさんに会いたくてな、年賀状も持って来た」
 郵便で送れば良いのに……
 と思ったけど鯨那君は私の家に遊びに来ても住所を知らなかったのを思い出した。
「どうぞほのかさん、自信作です」
 鯨那君は懐から年賀ハガキを取り出して私に渡した。
 表は習字でも習った方が良いと思うくらいの字で私の名前が書かれてたけど、問題はその裏だった。
「ヒイィっ! ゾンビィーっ」
「わぁ、凄い! ゾンビだ!」
 字は練習すれば何とかなるだろうけど、鯨那君に絵の心は全くなかった。
 まる1つの棺おけの中に下半身を押し込められて必死に出ようと這いずり苦しむゾンビの絵にしか見えなかった。
「失礼な事を言うな! どうみても七福神だろ!」
「七福神? これが?」
「どうみても幽霊船だよね」
「いや、難破船だろ」
「どうでも良いから早くそれ捨ててーっ!」
「あはは〜、お化けなんてナンセンスだよ〜、」
「お前らなぁ……」
 鯨那君は歯を軋ませた。
「く、鯨那君落ち着いて……」
 私は必死で鯨那君をなだめた。
 2学期編は鯨那君も登場するし、にぎやかになりそうだった。
 そして私が今使って開いている辞書の間に挟まってるつぼみちゃんも登場させるつもりだった。
 パイレーツ・ランドのアトラクションに運動会に学芸会に修学旅行に学校近くの森に秀君とのデートに皆で紅葉狩りにごちゃ混ぜクリスマス・ツリーを作った事に私の家で行ったクリスマス・パーティーにこの大晦日まで……
 2学期編は忙しそうだった。
作品名:冒険倶楽部活動ファイル 作家名:kazuyuki