小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

太陽の花

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 自分のすぐ近くで人の呻く声が聞こえて、静奈がはたと我に返る。
 慌ててホースの水を地面に向けて、自分の目の前に立つ人物に、静奈が目を瞠った。
「郁斗!?」
「……久しぶりだな」
 驚いて叫ぶ静奈に郁斗は口元を緩めた。
 以前と変わらない少女の様子にどこかホッとする。
「……うん、久しぶり……ってっ」
 ぽたぽたと髪から雫を滴らせている彼に、静奈が再び慌てた。
「ごめん! あたしのせいで濡れちゃったね」
 自分が空を見上げていた時に、手元が疎かになっていたからと続けながら、彼女は蛇口を捻った。
「待ってて。すぐにタオル取ってくるから」
 そう言って駆け出す静奈の腕を郁斗が掴む。
「いや、いい」
 すぐに乾く、と言う彼に静奈は困ったような顔を向ける。
「……でも」
「暑いから、丁度良いぐらいだ」
 だから気にするな、と郁斗が静奈の頭を撫でた。
「……うん」
 こくりと静奈が頷いて、漸く彼女の顔にも笑顔が戻る。
 その笑みにつられて郁斗も口元を緩めてから、ふともう一人の幼馴染がいない事に気づき、周りを見渡す。
 いつもなら鬱陶しいぐらい、静奈の傍から離れない彼がいない。
「……柊吾は?」
「今、買い物に行ってる」
 ぱたぱたと静奈が笑いながら答える。
「だって今日は郁斗の誕生日でしょう」
 にこにこと静奈が笑って、彼の手から荷物を奪う。
 だが、彼からの返事はなく、彼女は首を傾げた。
 何事かを考え込むかのように黙り込んでしまった彼の姿に、静奈がある事に気づき、ため息を吐く。
「……やっぱり忘れてた?」
「……ああ」
 歯切れ悪く答える郁斗に、静奈がくすくすと笑い出す。
「そうだろうって思ってた」
 なおも楽しげに笑い続ける静奈の頬を軽く抓ってやる。
 痛くはないけれど、静奈がくすぐったそうに笑いながら、郁斗の手から逃れるように離れた。
「……郁斗」
「何だ?」
「……まだ言ってない事があるよね?」
 悪戯っぽく笑い、静奈が郁斗からの反応を待つ。
 そこで、漸く自分があいさつを言っていなかったと彼は気づいた。
 改まると、なかなか言い出しにくいものなのだな、と思いつつも口を開く。
「……ただいま」
「お帰りなさい」
 昔と変わらぬ穏やかな笑みで静奈が微笑む。
「あのね、今日は郁斗の誕生日だから、ケーキも焼いたんだよ」
「ああ」
作品名:太陽の花 作家名:*梨々*