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太陽の花

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久々に会える。
 そう思うだけで静奈(しずな)の心は弾んだ。
 そんなに永い間離れていたわけではないのに。
 うきうきと手にした洗濯物を片付けて、彼女は空を見上げる。
 よく晴れた青空が眩しくて静奈は目を細めた。



『太陽の花』



 洗濯物を干し終えて、静奈はぐるりと庭を見渡す。
 キッチンから良い匂いが流れてくるが、焼き上がるまでには、まだ時間があったはずだ。
 ケーキももうすぐ焼きあがるし、買い物を頼んだ柊吾(しゅうご)が戻ってくるのも時間の問題だろう。
 後は、あの人が帰ってくるのを待つばかりだ。
 庭にある水道の蛇口に繋がったホースを手に取り、少女は蛇口をひねる。
 勢いよく水が噴き出して、乾いた地面を潤していく。
 静奈や彼女の母が大切に育てていた植物にも、水を与えながら、人工的に作られた虹を見つけ、目を細めた。
 植物に十分に水分が行き届いたのを確認してから、静奈はふと目に付いた大輪の花に近づく。
 自分が幼い頃に植えた向日葵を見て、今年も綺麗に咲いてくれたね、と静奈は嬉しそうに微笑んだ。
 初めて向日葵を育ててから、ずっと彼女はその年にできる種を大切に拾っては育てていた。
 もう何年になるだろう。
 あの頃は隣にいつも柊吾がいて、郁斗(いくと)がいてくれた。
 よく迷子になる静奈をいつも探し出してくれたのは、この二人だった。
 静奈の大切な幼馴染。
 けれど、今年から郁斗が大学に行くために家を出て、一人暮らしをする事になった。
 学校が忙しいのか、彼が滅多に家に戻る事もなく、ずっと隣に郁斗がいると信じていた静奈にとっては、胸にぽっかりと穴が開いたように感じた。
 郁斗がいない分を柊吾が埋めようとしてくれたけれど、それでも寂しかった。
 その郁斗が夏休みという事もあって、戻ってくるのだ。
 昨日は嬉しくて、あまりよく眠れなかった。
 ……眠れなかったのは、そのせいばかりではないのだが、それにしても。
「あっついなぁ」
 呻くように静奈が呟く。
 いっその事、このままホースの水を浴びてしまえば涼しいだろうか、と考えて思い止まる。
 そんな事をしても、一時しのぎにしかならないと彼女もわかっているのだ。
 それにしても、この暑さは何なのだろうと、静奈は青く晴れた空を睨みつけた。
 手にしたホースの事も忘れて、ぼんやりと空を眺める。
「……っ」
作品名:太陽の花 作家名:*梨々*