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しん よしひさ
しん よしひさ
novelistID. 17130
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たかが映画、されど映画

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HACHI 約束の犬

 2009年

監督 : ラッセ・ハルストレム
出演 : リチャード・ギア、ジョーン・アレン、サラ・ローマー、ケイリー=ヒロユキ・タガワ
脚本 : スティーヴン・P・リンゼイ
音楽 : ヤン・A・P・カチュマレク

 冒頭、長野の寺から送り出された犬は「八」でした。
深読みすれば、世界へ向けてたくさんの犬が放たれた設定なのかもしれません。
先の戦争で絶滅の危機にあった柴犬等のわが国の古来種犬は、時の権力や世間の無智にあらがったほんのわずかな人たちによって救われました。
その一例の秋田犬を劇中で「神の犬」として語ったり、ラストにきちんと渋谷のハチ公の紹介を挟み込んだのは、日系プロデューサーゆえなのかもしれません。
 私たち人間は、生涯沢山の約束を重ねます。
飼い始めた犬にも「ずっと一緒だから」と人は最初に約束します。
けれど哀しいかな人は変わり、約束も移り変わります。
人はその曖昧な約束ゆえに形を欲します。
小指だったり、針千本だったり、神父だったり、指輪だったり、印章だったり、証文だったり。
人だけが、ウソつきな故に「約束」が必要なのです。
けれど犬は、そのウソつきの中に稀にいるまっすぐな人を見抜き、形ではない信頼の約束をします。
そしていつも傍にいて、じっと見上げています。
私の妻と、今は亡くなった犬がそうでした。
訳があり長く離れていた我が家の「ロク」は、ずっと遠くから妻の足音を聴き分け、一目散に駆け出していきました。
何の疑いもなく待ち続けた姿は今も胸に残ります。
ねこは家に住み、犬は人に住むと思います。
冒頭の映像は、会うこと、共に生きることを定められた「約束の犬」を、その相手に届ける僧侶を写していたようです。
 この映画、子犬・成犬・老犬と都合3匹の秋田犬を使い分けていますが、みんなとても可愛い。
じっと見つめるその目は、胸の奥に届きます。
何が気に入らなかったのか、結局米国での劇場公開はなかったようですが、落ち着いた色彩は美しく、犬の目線を意識したロー・アングルのカメラの工夫も、思いつき以上の効果をあげています。
妻役のジョーン・アレンの内に篭り過ぎた演技や、10年後の駅頭でのHACHIとの再会まで何もしなかった疑問、絶えず刻まれる短いフレーズの音楽等、多少?な部分はありますが、ラストシーン「待たせたな」とギアがHACHIを迎えにくる設定でなにもかもオーライになってしまいました。
逝ってしまう日を知っていたHACHIは、また会える日も知っていたのでしょう。
10年間待ち続けた場所が二人の約束の地で、そこで再び会うことが二人の約束だったのです。
人が犬を迎えに来る珍しい設定ですが、涙にくれてしまいました。
人間が動物に選ばれる、こんな作品を米国が受け入れる日がくれば、もっとましな世界になるでしょうに。