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蛇の目

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昭和天皇の崩御を待っていたかのようにバブル経済がはじけた。
最高値40,000 円近かった日経平均株価は一気に半額以下まで落ち込んだ。
当事証券大手4 社の一角といわれた山一證券は「ヒメゴコロの郷開発公社」
の開発資金の運用ファンドを担っていたのだが、利益はおろか元本の
80%を失っていたのだった。

そうなると、自前の農協ですら、手のひらを返した。
すべてが去ってゆく。
若き青年社長は、わずか2 年で消えた。

「バブル崩壊で、すべてが終わったデすよォ、すべてがね・・・。
その後はね、なんとかヒメゴコロのお陰で食べてますが・・。」
「すべて終わったデすよォ、白ヘビさまも助けちゃァくれなかった・・。」
と自嘲気味に投げ捨てた時に。

「山本権造」が、自ら甲高い声をあげたのだ。
「貴様は何ひとつ、すべきことをしていないじゃないかッ!」

突然の発声に驚くのも束の間、「山本権造」は、はちきれそうなほど
血管を浮き上がらせて、手にしていた茶碗を幸造に投げつけた。
「親として、キサンにゃ期待しておったン、裏切りやがってぇ!
こん穀潰しがぁーッ!
挙句ん果てに、川辺に土地売るたぁヨッ!」

「山本権造」の黒い顔が赤く変色し、甲高い声が更に高まって。
怒りがおさまったのか、再び、モニョモニョ口を動かし、
こちらを向くと、
「今日は、ここまで。」
玄関に向かわされた。


作品名:蛇の目 作家名:平岩隆