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Merciless night(2) ~第一章~ 境界の魔女

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 とかなんとか。オレがやれば即死か。いや、大体やられて主人公はヘタレと言われ、不運な認識や誤解を生むのか。強(あなが)ち間違いではない時もあるが。
 オレはそういったキャラではない。

 坂宮さえ捕らわれていなければ……。


「坂宮を返して貰いたい。目的はオレなんだろ」

 ええ、とリティは頷くが、

「でも遅かったですね。もう、“あれ”は開く。そのためにこの子(坂宮)の魂は頂きます。最後のピースとして」

 坂宮の魂が浮遊する。
 途端ファミーユが地面に手をあてる。
 先の騎士戦で描いた円形の絵からその場に電流が走る。
 竜のようにうねる“それ”は空を駆け坂宮の魂に到達し行く手を阻む。

「そんな体でよく魔術なんかを」

「あら。その体ってどの体かしら」

「………………!」

 オレは後ろを向く。そこに腹部から血を流す彼女の姿は無かった。

「驚いてるようね。騎士から魔力を分けてもらったのよ。傷を癒せるほどのね」

 計算通りというその表情はどッかの主人公を思い出させる。

「あの剣から……。しかたないわ」

 場の状況が不利と悟ったのかリティは姿を消した。
 電流は魂を元の体へ戻す。





 

 ―――――――――――――輝
 一つの光が坂宮の体内へと消える。
 それが何なのかはオレにはわからなかった。







 坂宮の表情は変わらないものの一安心した。
 その後急ぎ坂宮を家へ送った。




 










 昨日の今日。本当に疲れた1日だった。
 まあ、何もしていないのだが、それでも疲れた。
 1件は済んだ。が、何も終わっておらず、猶予は短い。
 余命宣告は昨日の売却地から帰る時のことだった。

「リティはこの都市を生け贄に力を得ようとしている。おそらく準備は万端ね。この都市の至るところに魔術式が見つかっている。早くて3日以内に発動されるわ」

 とのこと。ファミーユの話が本当だと3日間しか都市はもたない。
 逃げるか。
 いや、そんなことをするとヘタレへの道を突き進んでしまう。
 できる限りの努力はする。それがオレの答え。
 だが、3日間。
 実感など起きない。
 普通の生活を送っていて、ちょっと痛みが体にあったから病院にいったらガンで寿命は残り3日間と言われる様なものだ。
 シリアスか、コメディーか。

「おっはよー成人」

 これはコメディーだよな。

「おはよ、雪上」

「どうしたの?考え事をして」

「考え事?……ああ、雪上と零のことを考えていたんだ」

「だってよ零」

 雪上の後ろからひょこっと零が現れる。

「おはようございます。成人先輩」

「おはよう」

「明日だね、お花見」

「ああ、そうだな」

「楽しみですね」

「だが、あと2人誘わない……と……、いや1人だけでいいか。誘うヤツはもう決めている」

 誘う人物は決めていた。と言っても決めたのは昨日だが。
 昨日の件からオレは坂宮を誘うことにした。
 哀れみから、可哀想な目にあったからではない。
 心から誘ってあげたいという心遣い。
 勿論、親友として。

「え?それって誰々」

 教えて欲しくせがむ雪上にお決まりの一言。

「それは、禁則事項だ」

 一度言ってみたかった。時代遅れか?
 否。最先端であり、心に残る一言だ。

「何それ~。」

「どうしても秘密なんですか、成人先輩」

 この返事が返ってくることは予想していた。
 だからこそ、

「禁則事項です」

(………………。)

 男が言うのも結構、気持ち悪いよな。
 まぁ、やりたかっただけだから。いい……よな。

「その……誘いたいって人、成人と同じクラスの坂宮さんでしょ」

(………………!)

 雪上。今、何て?
 オレは誰にも教えた記憶はないし、誘うと決めたのはベットの中でだし……。
 朝起きるまで誰とも会ってはいない。

(…………勘?)

 いや、それにしてもピンポイントすぎる。

「そんなことない……ぜ」

 ヤバイ。噛んじゃった。

「へぇ~。その割には黙っている時間が長いし、さっき噛まなかった?」

 零は不安そうな目でオレと雪上を交互に見る。

「そ……それなら、雪上が坂宮だと言える根拠は?」

「そ……それは、成人に言っても信じてもらえないから言わない」

「え!?」

 予想外の答え。
 オレが待っていたのはそんな答えじゃない。
 意味深過ぎる。

「ご……ゴメンネ、突然。今日、私変みたい。零ちゃん、私先に学校行くから、成人を頼むね」

 搾り出すようなか細い声。
 雪上は駆けてゆく。
 オレはそれを追わない。追えない。
 仮に雪上を追ってどうしたと問いかけても彼女を苦しめるだけかもしれない。

「零、 雪上を追ってくれないか。今は零が雪上のそばにいてやってくれ」

「でも、静先輩は……」

「オレが行ってはいけないんだ。だから……頼む」


 複雑そうな顔をしながらも、零はオレにお辞儀をし雪上を追っていった。
 オレは雪上と話す時間を作ることにした。
 簡単な話じゃなさそうだ。














 教室入り口のドアに手を掛ける。
 開ける手が震える。
 坂宮が居ませんように。
 ガラガラ………。

「おーい、誰かいませんか~?」

 声は教室に響き自分に返ってくる。
 よし。
 心の中でガッツポーズを決めた。
 
 ――――――――が、


「おはよう!ナッリ~!」

「おっ、おわっ!」

 心臓は破裂し、そのままオレは即死。
 目は白目をし、既に頭は地面に着いていた。

「ひどいよ。死んだふりなんかして!」

 体重が倍増したように重く、何かほっぺたがつねられたように痛い。

「動物さ~ん」

「ちょい待て~」

 頬を掴む坂宮の手をどける。

「オレの上からどいてくれるか」

 頬をつねられる痛みにより気づかなかったが、坂宮はオレの体の上に馬乗りになっていた。

「ナッリ~の上ふかふかして気持ちいいよ~」

「あのな、オレは羽毛の布団か、ソファーか、クッションか?」

「ううん。芝生」

「芝生かよ」

「それよりもあそぼ~よ~」

 この甘え口調には魔術が使われている。
 この口調に騙されてはならない。

「オレはそんなものには屈さん!」

「ナッリ~のケチ!」

「何だそれは」

 坂宮が体の上から離れる動きがみられないため、とっさに学生ズボンのポケットから秘密兵器を取り出す。

「輝きし飴を右腕に!」

 途端、坂宮は体から飛び退き右腕をガン見する。

「それはもしかして」

「そう。佑所正しきレモン味の飴」

 ゆっくりと体を起こそうとする。しかし、オレにそんな暇はなかった。

「それ、ほっし~!」

 ドサッ、っと音を立てまたオレは倒れる。
 逆効果だったと嘆く。
 だが、不思議な感覚だった。
 教室には人が集まっているのに、全く坂宮を気にする人が一人も……いや、一人を除き誰もいない。そればかりかオレを見る目線が異様に冷たい。
 
「成人。朝からイチャイチャか?」

 見上げたところに池井がいた。

「これをどう見たらそういえるんだ?これは襲われているんだ」