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Merciless night(2) ~第一章~ 境界の魔女

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獲物に突きつけられた刃は沈黙し、ただ、切り裂かんとしている。
 ファミーユは右手を地面につく。

「魔力を一つに集中させる……か」

 騎士の言うとおり、彼女も柱に懸ける魔力を千にすれば容易く騎士の剣を砕くことが出来る。だが、遅かった。騎士の剣はただ相手を切りつけるだけでなく魔力さえも削り、自身でも知らないうちに大きく魔力を消費していた。騎士の魔力を上回れるかは不明だ。一つの判断ミスが死を招く。緊迫した状況で彼女は一つの勝負に出た。
 右手で地面に魔術式を描く。それを見た騎士はファミーユへ襲い掛かる。

「確かに一つに集中させれば威力は上がる」

 瞬時に光の柱を召還し振り下ろされる剣を防ぐ。
 柱にひびが入る。
 使う武器には徹底的な魔力の差があり、騎士にすればファミーユの召還する柱は、風が吹けば崩れる砂壁に過ぎない。
 それでも尚、ファミーユは柱を振るい騎士に対抗する。
 騎士の剣に幾度と柱を壊されても再び召還し、また剣を交える。
 腹からは血が流れ出し体力的にも限界が来ていた。持ちこたえていられるのは後わずかだろう。

「でもね……」

 ファミーユは騎士の動きから少しずつ勝機を伺っていた。それと共に、別にどうでもいい騎士の剣筋が見えるようになり、剣からは薄っすらとハルバードが浮き出て見えた。
 見出す勝機は騎士の剣筋などではない。
 騎士との位置関係。
 さっき描いた魔術式が騎士の背後に来るよう仕掛ければ良かった。
 今、絵の場所と騎士とはファミーユを挟んで対峙している。ファミーユが見出した勝機は、騎士が鎧にある魔力が全て剣に注がれているならば、騎士を守る鎧は紙と同等であり、そこが弱点ではないかということ。しかし、鎧を狙うためには真正面からでは防がれる。確実に倒すためには、ファミーユと騎士の位置を反転させなくてはならない。
 立ち位置を反転させるまでは最短で3撃。
 残りの魔力を無駄にするわけにはいけない。
 ファミーユは勝利の方法を頭にイメージさせる。

「あなたの戦術には欠点があるわ」

 ファミーユの柱は騎士の左腕を突く。

 
 1撃。

 
 騎士はそれを右に避ける。
 続けて大振りで柱を騎士の頭目掛け振り下ろす。


 2撃。


 騎士はさらに右へ避ける。
 ファミーユは勝利を確信する。右腕魔力を遮断し柱を消し、替わりに巨大な魔力の弾を造り放出する。

 3撃。

 これを騎士が右に避ければ全てが終わる、そう思っていた。
 弾は騎士へ射出される。その威力は凄まじく当たれば即死であることは確実だった。だが、騎士はいとも簡単にそれを両手の剣で粉砕し、騎士はファミーユへ迫る。
 騎士の繰り出した刃はファミーユの右腕を突き刺す。
 血は刃を伝い騎士の腕にたどり着く。
 騎士は迷うことなく、もう一方の剣でファミーユの腹を突く。
 腹からは剣が突き抜け、完全に貫かれていた。
 ファミーユが左腕に持つ柱は消え去る。そして、自身を貫く剣に両手を乗せる。

「捕らえたわ。実体化させた魔力はすぐに消すことはできない」

「まさか」

 騎士は急ぎ剣を抜こうとするも抜けない。

「自己装縛が徒となったようね。ハルバードはそう簡単に抜けないわ」

 ハルバードは、ただ槍として突くだけの能力だけでなく、切り裂くために刃が矛先の横にも付いている。そのため勢いよく腹と腕を貫いたハルバードの横の刃は、抜くときには邪魔な出っ張りでしかなくなる。それに加えファミーユが柄を握っている。

「因縁に区切りは…就いた……かしら……ゴホッ」

 口から大量の血を吐き出す。

「心配しないで。あなたの魂はきちんと送還するわ。だから……」

 騎士は元主に身を委ねる様に剣を持つ力を緩める。
 騎士の魔力の9割は剣に使われており、身を守る鎧はただ実体化しているように 見せかけるだけで防御力は無に等しかった。
 それ故に、剣が抜けない今、騎士は自身の敗北を悟った。
 ファミーユは騎士の黒い鎧の胸元に手をあてる。

「安らかに就寝(終身)を。Repetition ascension(報いの死翅)」

「フッ………………」

 鎧は光る気体となり、騎士は光に包まれ消えた。
 ファミーユを貫く剣も光に包まれ消える。
 ファミーユは死んだようにその場に倒れる。
















「ファミーユ!」

 急ぎその場に駆け寄り、頭を抱き起こす。

「ファミーユ!」

「あら……成人……。あの子を助けないと」

 力の無い手で坂宮のほうを指差す。

「ああそうだな。じゃあ」

「何それ!」

 急にファミーユは声を荒げる。

「この戦いに至った目的は坂宮の救出だ。そうした場合、ファミーユは命を賭して戦い死んだ、とした方がカッコよくないか?」

 ファミーユはコクリと頷く。

「確かにその方が英雄になれる。でも、成人がヘタレだということは確実よ」

「まあ、自慢じゃないが戦っていないしな。だが今後の働き次第では……」

「どの道ヘタレ決定よ」

「くっそー。ヘタレにだけはなりたくなかったのにー」

「まあ今回は仕方が無いわ。成人が騎士を相手にするなんて……」

「さあ、戦ってみなくちゃ分からない」

「でも助力ぐらいしてもいいじゃない。だって成人は……」


「仲良くお喋りのところごめんなさい。けど、喋っている時間は無いんじゃないのかしら」


 少女の声がファミーユの言葉を遮る。

「人質を助けることがこの戦いの目的じゃないの?」

「リティ・ビレットか……」

 オレは身長140センチメートルぐらいで、長い髪に茶髪の少女を目にし、誰にも聞こえないように一人呟く。
 わざわざオレを探すため空を歪まさないでくれ。

「なんて成人?」

「いや……あの少女がかわいく思えて」

「何よロリコン」

「ロリコン言うな」

「あの……状況をわかっているの……。人質が取られているの、あなた」

 リティは冷静な口調で喋る。

「あなたが生きる死体と、騎士を呼び出した元凶ね。で、名前は?」

「私はリティ・ビレット。もし口での交渉で済むのならいいのですが……」

「交渉?いったいそちらの要望は何かしら」

「人質の解放」

「人質の解放?」

「真隼様の解放をお願いします」

「お、オレ?オレは何も無いぞ」

 リティは坂宮を浮かせ自分のところへ運ぶ。

「そうですか。口封じをされているなんて」

「誤解よ」

 坂宮がリティの手の上に乗る。

「兼ねてからの策を実行させてもらいます」

 坂宮の胸元から光る物体が浮遊する。

「あなた魂を!」

「そう。全てはヴァルハラのため」

「何をする気。まさか都市中の魂を集めて……」

「……そう。理想郷(ヴァルハラ)への道造り」

 魂?
 ヴァルハラ?
 二人の話は飛躍しすぎて内容が攫(つか)めないし、口を挿めない。
 ああ、これが世に言うデジタル・デバイト(情報格差社会)ってやつか……。
 感だが、どうやら都市(まち)の人の魂を使ってイリュージョンをするらしい。
 主人公キャラならこの場合……、

(そんなことはさせない!)