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恋の掟は冬の空

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にらまれて、笑って


「夏樹も大場君も、やらなくっていいってば、あとでするから・・」
「片付けちゃうよ、退院お祝いしたのに、後で直美が大変じゃ困っちゃうから・・」
「そうそう、洗うのは俺でも出来るから・・」
10時をまわると、夏樹が、明日の朝早い飛行機で沖縄に帰るからって言って、片づけを始めていた。
「ごめんね・・」
「いいのいいの、半分押しかけたみたいなもんだから・・・ゆっくりしててよ、直美ちゃん。 片付けたら、夏樹送って俺も早いけど帰るからさ、明日さ、予備校の模擬試験の監督官なのよ、俺」
「直美、土鍋はここに置いとくね、乾いたらしまってね」
「うん、ありがとう」
「はぃ、終了っと」
大場は、ほとんど遊んでたみたいだったけど、夏樹がてきぱきと動いてあっという間に終わっていた。残ったのはテーブルの上に俺と直美のコップだけだった。
「よし、じゃぁ 帰るか、夏樹」
「うん、帰ろうか、忘れ物ないよね」
そのまま、2人ともほんとうに帰るようだった。
「沖縄から帰ってきたらお土産持ってくるからね」
「荷物にならないのでいいからね」
「帰ってきたら連絡するね、直美」
「うん」
少し酔って歩き出した2人を見送るために直美と一緒に立ち上がって、玄関に向かっていた。
「ありがとうね、ごちそうになっちゃって、悪かったわ、大場・・」
「いいって、いいって、また、うまいもの食おうな」
「今度は、俺がご馳走するから」
「お、いいねー 期待してるわ」
「ありがとうね、夏樹も」
「うん、またね。じゃあ 直美、来年もよろしくね、劉もね」
言われてびっくり立ったけど、あと何日もしないで新年だった。
「そっかぁ、 こちらこそ、夏樹も大場君も、来年もよろしくお願いします」
直美が笑顔で答えていた。
「ほいじゃ 帰るわ、車が入り用だったら連絡くれれば飛んでくるからさ、無理すんなよ」
「直美も 劉もおやすみねー」
「うん。気をつけてね」
「おやすみー」

「うーん、おなかいっぱいで、幸せだぁー」
2人を見送ってソファーに横になって直美が伸びをしながら、声を出していた。
「なんか、1日で太ったような気がするわ」
「たぶん 私も太ってるとおもう・・」
「あっ もう 俺っていつも寝てる時間なんだ・・そっかぁ・・」
「ほんとだ・・・ 眠いですかぁ、劉ちゃーん・・」
からかわれていた。
「うんとね、少し眠いかも・・」
「やだー、もう少し起きててね、お風呂入ってないし・・」
「お風呂は、入るよー 頭かゆいんだもん」
「もうー、頭かかないでよー 今、お湯入れてくるから、寝ちゃったりしないでよ」
あわてて、ソファーから立ち上がりながらだった。

「ギブスにまた、ビニール巻かなきゃだな」
「ちょっと、私にも、やらせて、それ・・」
お風呂場から戻ってくるとビニールをまきつけていたのを見て手を出してきた。
「うーん、もれないようにね・・」
「大丈夫だってば、おとなしくしてなさいよ」
おもしろそうに、綺麗に巻きつけていた。
「もっといい方法ないかなぁ。これって・・」
「ま、もう少しの辛抱だから・・でも痒いんだよね、中・・」
「そうかぁ、そうだよねぇ」
「あったまると、後で余計にかな・・」
「指は入らないもんね、これって・・・」
「でも、棒つっこんで掻いてると、余計に掻きたくなるから、がまんしたほうがいいんだよね、掻き出しちゃうと止まらないから・・」
「そうだねー はぃ これでいいかな」
「うん、大丈夫そうかな・・」
俺が巻くより ずっと綺麗に丁寧に出来上がっていた。
「今日は背中洗ってあげるね」
「えっ、いいってば、洗えるから」
「恥ずかしいわけ・・」
「そんなことはないけど、背中なんか洗ってもらったことないし・・」
「足が不自由なんだから いいじゃない、洗ってあげるから」
「いいってば・・」
「いいってばじゃないって」
言いながら、なぜだか、軽く頭を叩かれていた。
諦めて、素直に聞き入れたほうがよさそうな気がしていた。

「開けるよぉ」
言われた時にはお風呂場のドアはもう開きだしていた。
「うわぁ、ほんとに洗うんだ・・」
ちょうど頭を洗い終えたところだった。どうやら、外で中の音をこっそり聞かれていたようだった。
「へへ、さ、背中こっちに向けてよ」
「もー、しらばっくれようかと思ってたんだけどなぁ・・」
「いいから、いいから」
言いながら石鹸を取って泡をタオルで作っているようだった。
「洗うからねぇ」
声と同時にもう、背中を直美の手が動いていた。
「昨日は、洗ってないから 汚いぞ、きっと」
「うん、真っ黒」
「うそぉ」
「うん、うそ、泡でわかんないよ、そんなの」
当たり前だったけど、おかしくて笑われていた。
「正月に帰らないで、田舎はなんか言ってなかったか・・なんて言ったの・・俺が退院したんだから、帰ってきなさいって 言われたんじゃないか・・」
「おかーさんには、正直に言ったけど、おとうさんには、アルバイトだからって言ってもらうことにした」
「そっかぁ」
「劉だって、言われたんじゃないの、なんて言ってあるの・・」
「まだ、ギブスだし、歩くの大変だからって言っておいたけど、わかってるみたいだったな」
「うん、きっとわかってるね」
「さすがに、お正月にこっちで直美と過ごしてみたいんだけどって正直にはいえないわ」
「わたしは、おかーさんには言っちゃった」
「うん」
「うまく、おとーさんには 言っておくからって、電話口でなんかうれしそうだったなぁ・・」
「おかーさんらしいね」
「大晦日から、元旦ってなんか楽しそうだね、ほんとに退院できてよかったね・・」
「この足だから、人ごみ多いところはいけないかも知れないけど、初詣いこうかぁ」
「うん。いい場所あとで 考えようね」
「どこかあるかなぁ・・」
静かでいい神社ってどこだかさっぱりわからなかった。
「はぃ、おわり、手だして、劉」
「え、いいってば」
「いいからいいから」
無理やりだったけど、もういいやってあきらめて手を出していた。
「あのさ、もう直美も入っちゃえば、一緒に・・」
「えー やだってば・・」
「いいから、いいから、ほらっ」
「うわぁー  何するのよぉー、ひどーい」
洗面器いっぱいのお湯を直美の頭にかけていた。
「あきらめて、入りな・・」
「もー まったくー」
泡だらけのタオルごと叩かれていた。
もちろん一緒にびしょぬれの顔でにらまれていた。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生