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恋の掟は冬の空

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診察結果


「柏倉くん いるかなぁー 」
ずっとぼーっと本を読んでいると婦長の声だった。
「はぃ、何でしょうかぁ・・」
「今、大丈夫よね・・・山崎先生が呼んでるんだけど・・1階の第一外科の部屋までいけるかしら・・わかるわよね」
「はぃ わかります。レントゲンの結果ですかね」
「たぶん そうだと思うわよ」
「じゃぁ 行って来ます」
笑顔で答えていた。

1階に下りるともう午後になっていたけど、まだ、薬局の前なんかは少し人が待っていた。
第一外科の受付にいって 名前をいうと、少し待つように言われたので長椅子でぼーっとしていた。
「あ、ごめん。呼んどいて待たせちゃったね」
山崎先生は部屋からではなく、廊下を左側から歩いてきた。
「救命救急に呼ばれちゃってさー ほんと人使い荒いんだよねー ここの病院って・・さ、中に入ってくれるかな」
言われて中に入ると、先生はレントゲンの写真に電気の光を当てていた。
「あ、座って。どう わかるかなぁ・・」
言われて光があたっている自分の足のレントゲン写真を見ていた。真っ白なネジがはっきり見えていた。ボルトって言うんだろうか。
「これって くっついてるんですかぁ・・骨がついてるんだかなんだか、さっぱりです」
「正確にいうとねー だいぶくっついたかな。ここんとこ、少し白くなってるじゃない」
ボールペンで折れた箇所を指しながらだった。
「綺麗についてるよねー 俺って、けっこう手術うまいのよ、俺が当直でよかったねー 柏倉君」
笑いながらの説明だった。
救急救命センターに運ばれて、それから手術室で腰椎麻酔をされて、ギュィーンって音と共に俺の脚にボルトをねじ込んだのがこの先生だった。
「で、あのー 退院できるんですか」
「あ、えっとね いいんじゃないかなぁ。日曜日でいいかな、今度の・・昨日、俺ってそう言ったっけ」
「はぃ 言いました」
「では、それでいこうか。病棟には指示出しておくからね」
直美ががっかりしないでよかったって ほっとしていた。
「退院しても無理しないようにね、それと通院はしてもらうからね。最初はそのままリハビリね。それから ギプスを時期が来たらはずして、またリハビリ、それから最後はこのネジをはずすかな。それは半年後ぐらいかなぁ」
まだまだ、長そうでちょっとうんざりした。
「骨折の場所はいいから、普通の生活レベルでの障害は残らないと思うけどリハビリはきちんと指示されたようにやってね」
普通の生活ができれば、もう充分だった。
「では おめでとう 退院決定です」
「ありがとうございます」
頭を下げていた。
「柏倉君ってさ、交通事故だったんだよね、えっと、道を歩いてたら交通事故の車がぶつかってきたんだっけ・・補償とかその辺の話はきちんと進んでるかなぁ・・退院だとお金かかるからね・・」
「それは 東京の叔父の会社の弁護士さんが相手側の保険会社と交渉してるので大丈夫です。まだ、正式には示談してないので、病院の支払いは一時金って形で先に支払ってもらいますから・・」
相手の車の保険から基本的に病院の費用すべてと、バイトの休業補償と慰謝料だったけど、その慰謝料の金額は退院してからって事で示談書にはまだサインはしていなかった。
「なら 大丈夫だね。先に大体の金額を聞きたかったら、婦長にでも相談しなさいね」
「はぃ ありがとうございます」
「じゃぁ 病室に戻っていいですよ。その足はいくらになるんだろうねぇ・・がっちりもらっときなよぉ。抜釘でまた痛い思いするんだからね」
「それって切るんですよね・・」
「そうだけどぉ ま、小さくだよ」
平気な顔の先生だけど、俺はけっこうイヤな顔をしていた。

外の空気を今日も吸ってみたくなったから、外にでてみた。
スエット上下だったから、少し寒かったけど、やっぱり風は気持ちよかった。足の指先はやっぱり寒かったけど。
それから5階に戻って、時計を見ると4時少し前になっていた。
「あ、ちょうどよかったぁー 柏倉くん 電話、電話」
ナース室の前で工藤主任が大きな声だった。
「これ、ちょうど直美ちゃんから・・退院決まりましたかって聞かれたんだけど、どうなの?あ、代わるね」
電話を押し付けられていた。直美の声が聞こえていた。
「劉なの・・退院決まったぁ?」
大きな声だった・
「うん。予定通りに日曜に」
「わぁー よかったぁー」
うれしそうな直美の顔が浮かんでいた。
「おめでとう。転んだりして足つかないでよー 絶対よ」
「うんうん 気をつけるから・・仕事のじゃまになるから、もう切るから・・水曜日ね」
「うん、謝っといてね 工藤さんに じゃあね 劉 バイバイ」
最後までうれしそうな直美の声が響いていた。高校生の時から聞きなれたうれしそうなバイバイだった。
「すいません じゃましちゃって・・」
受話器を返しながら謝っていた。
「いいのよ、よかったね 退院決まったんだね」
「日曜日になりましたので お世話になりました」
「そっかぁ おめでとう さびしくなるけど おめでとうだね」
「さびしいですかぁ・・」
「そりゃあ 元気になって退院はうれしいのよー 私たちはね、でもね、やっぱり見慣れた顔がいなくなるってのは少しさびしいものなのよ。通院してくる時はたまに顔出しなさいよね。ここにも」
「はぃ わかりました」
言いながら そうかぁーって考えていた。
「では 失礼しました。直美が謝ってましたので、すいませんでした」
ナース全員に頭を下げていた。
「わたしも さびしいわー 柏倉くーん・・」
ナース室の奥のカーテンからいきなり顔を出して、佐伯主任が笑いながらふざけていた。
若いナースの笑い声がそれに続いていた。
みんなあいかわらずの5階外科病棟のナースだった。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生