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夏 光一郎
夏 光一郎
novelistID. 14184
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ドンキホーテと風車

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「草木も眠る丑三つ時」部屋の音源は、小型冷蔵庫の微音、空調の音、ユニットバスの換気扇、これだけだ。部屋の空調をオフにし、さらにユニットバスの換気扇も切って、冷蔵庫がダウンしたときに、じっと耳を凝らしてみる。窓は締め切ってある。音源はほぼゼロだ。風車の音は聞こえない。今度は、窓を開けてみる。さらに網戸を開ける。このホテルは、窓の開閉ができるのでラッキーだった。満月が太平洋側に上っており、その北側に風車が、うっすらと見える。風は微風だ。風車のタワーの中央部に航空識別灯が二つ、ナセルのうえに一つ、赤い色を点している。
 金属音は全然聞こえないが、風を切る音がするような気がする。聞こえないといわれれば、聞こえないのだろう。しかしこの風を切るような音は、実は廊下の天井の空調の音だと、翌日廊下に出てみてわかった。風車はこちらを向いている。つまりまだ風は海風で、風上側に私がいる格好になっている。ワープロを打っていて気づいたのだが、音で気になるのは、冷蔵庫の断続的な音と空調の音だ、この人工の音ほど気になるものはない。私たちは、さまざまな人工的な音源に囲まれて生活している。その中で、風力発電機が出す音は、ブレードと風が混じりあう音だ。風は木々のこずえを通り抜けてざわめきの音を出す。音が大きいと不安感を掻き立てる。小さいと心地よい。ブレードが風を切る音は、自然界に存在する音と、人工的な音との中間的な音のように聞こえる。

 風車は眠れない

翌朝、目が覚めたのは、七時前。さすがのドン・キホーテも疲れを隠せない。風呂に入り、朝食をとり、いざ風車を目指して愛馬にまたがって前進、とは掛け声ばかり。看板には、「パターゴルフ場から徒歩で十二分」とある。
「軽い、軽い」
 と、登り始めた。しかし頂上まで三分の一しか来ていない所で、ダウン。休憩。高原の風はさわやかだ。結局十五分かかって、頂上について。ノルデックスの1300キロワット風車がくるくると回っている。はるかかなたに鹿児島湾を望む。桜島も見える。「爽快、爽快」と、ドン・キホーテは独り言を言う。
 施設には、電気技術主任の人がおり、あらかじめ私が出しておいた質問状に答える形で、資料を用意してくれていた。主任は九州電力のOBで、週二回通ってくるのだそうだ。
風力発電の話が出たのは、発電によって経費が節減出来るかどうかもあったが、風車の価格が高く、コストもかかるので、むしろ環境に易しい経営のシンボルとして、建設することになった。ホテルでは、最初から重油のコージェネをやっていて、風力の話が出たが、会社の方針として、最初は反対だったようだ。NEDOの補助金を三分の一受けて残りを自己資本で建設。
 故障はほとんどが雷。ここは雷の多いところで、主要な部品は石川島播磨重工ですぐに用意できるのだが、肝心な部品となるとデンマークから取り寄せるので、一ヶ月待ちということになる。保険は当初百万円を予想していたが、結局雷対策で四百万円になった。保険はホテル全体にかけているもので、風力発電だけで四百万円。
 風力発電のところで、結婚式を提供しているが、あまり利用はない。建設直後は、小学生の見学、大分大学の先生が市民風車を作るので参考にと、見学に来た。韓国・中国の人も来た。ゴルフとセットできた。
「環境に優しいホテル経営というのは、なかなか出せない」
 と、白尾さん。
「どういうことですか?」
 と、聞くと、
「発電の付加価値分として、キロワットあたり二円で自然エネルギー株式会社に売っており、それを環境に優しい会社でありたい会社が買うわけだ。もう売っているわけだから、売主のほうで環境に優しいというのは控えてくれと…」
 経営母体の「光開発」は、以前は飼料をやっていた会社で、今は錦江高原ホテル一本でやっている。ゴルフとホテルを二つに分けて経営をしている。

 電気室は、本館から離れた家族向けのゴルフ練習場の隅にある。そこで、風力管理のデータをパソコンから出力してもらい、いろいろと説明を受けた。発電関係データは一秒ごとのデータとして、電気室と石川島播磨のコントロールセンターでつかんでいるので、特に巡回はしていないという。電気技術主任が来てデータを点検し、必要に応じて巡回するようだ。
「あと一基増設計画はあるが、太陽光発電のように、売電価格を優遇してくれないと、増設は難しいし、現状でも赤字経営だ」
 という白尾さんの言葉が印象的だった。渡されたペーパーをみると、キロワット当たり発電コストは十四円とある。

 下関・豊浦ウインドファーム

 九州新幹線

 十時半発のシャトルバスで鹿児島中央駅へ向かう。昼前の九州新幹線で鹿児島を後にした。下関着が四時半。予約した東横インは駅前にあった。大きな商業ビルに隣接している。軽く食事を済ませ、タクシーに乗った。
「壇ノ浦の合戦が望めるところへ行ってください」
 と言うと、
「待っていますから、ゆっくり見学してください」
 と、タクシーの運転手の吉崎さん。
「下関の人は、みな平家の味方なのですか?」
 と、聞くと、吉崎さんは、
「河野、植田の性が平家の子孫で、富田が源氏の子孫だという。うりゅう(瓜生か?)が海賊の子孫」
 だという。駅前のコンコースに、平家の踊りと題するモニュメントがあったので、聞いたのだが。吉崎さんは、ぜひ赤間神社を見るように進めてくれた。安徳天皇を祭ってある神社だ。天皇の家族が盛大な参拝をしている。朱塗りが目立つ神社だ。神社からは、関門大橋が見える。その下は関門海峡だ。たった今しがたこのトンネルを、JRに乗って走ってきたのだ。九州側から陸地が迫っている箇所、ここが関門海峡だ。義経と知盛の勇姿が銅像になって往時の面影をとどめている。
 吉崎さんが言う。
「どうですか。手がかりはつかめましたか?」
「やはり見ると違いますね」
「潮の流れはものすごくて、ダイバーがもぐったところ、海底では大きな岩がごろごろと流れているようです」
  と、強調する。私は、おばあさんに抱かれて海へ飛び込んだ安徳天皇のことを思った。夕方潮の流れが、西へ急変することは吉崎さんも認めた。私が、
「平家のお姫様が、対馬海流を北上、島根県の仁摩町琴が浜に流れ着いたという伝説がありますよ」
 と、言うと、盛んに感心していた。彼はまた、赤間神社関連のお祭りで、平家の女方が女郎に扮した踊りを踊ることを教えてくれた。
「源氏の人身御供になったということですか?」
 と言うと、
「地元で生きていくためには仕方なかった」
 と、言う。彼は、司馬遼太郎の記述が一番史実に近いのではないかという。
 さわやかなガイドさんだった。

 八月二十五日
作品名:ドンキホーテと風車 作家名:夏 光一郎